辛酸なめ子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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そこから先は地獄

2025/11/4公開

三組の夫婦の泥沼の三角不倫

「そこから先は地獄」は、三組の夫婦の愛憎や裏切り、不倫について描いた深夜のサスペンスドラマです。第1話から「ドロドロの三角不倫!! その美しい男を、愛してはいけなかった。」という刺激的なタイトル。人間の業が凝縮した地獄絵図がテンポよく展開していきます。

 結婚して3年、妊活中の矢嶌莉沙(井桁弘恵)は、夫の高久(落合モトキ)の不倫を知ってしまいショックを受けます。浮気に気付いたきっかけ、というか地獄の扉は夫のノートパソコンでした。妊活のためのおざなりなセックスのあと、莉沙は何気なく夫のパソコンの検索履歴をチェック。「営業トーク 例」「クロージング失敗 原因」「CRM ツール 比較」「営業日報 自動化」とまじめそうな履歴の下まで見ていくと「最新IT トレンド」のあとに「ラブホ 渋谷 きれいめ」という検索ワードが! パートナーの検索履歴を見る、という行為が心臓に悪くてサスペンス感が盛り上がります。莉沙はちょうど同僚から、既婚者専門のマッチングアプリの存在を聞いたところで、既婚者同士はラブホに直行する、という事情を教えてもらったばかりでした。「それなりにきれいなラブホ? 何その中途半端」と、苛立ちを覚える莉沙。夫婦関係に暗雲が立ちこめますが、いっぽうで莉沙も、はじめて行ったジムでイケメントレーナー、城内涼(豊田裕大)に出会い、少しずつ惹かれていきます。ドラマの途中、CM前に画面に「不倫なんてやめたほうがいい 今ならまだ間に合うから」と警告文なのかフラグなのかわからない煽り文句が出現しました。

 ジムはマンツーマンで、四つん這いなどの姿勢で密着気味で指導を受けたり、すでに何かが始まりそうな気配です。急に体に触られて驚いた莉沙が手で払いのけて、涼がトレイにぶつかってトレイが倒れる、というハプニングも。莉沙の肩に、生まれつきの痣を見つけた涼が「きれいです、すごくきれい……」とほめて、ちょっと妖しい雰囲気に……。

 帰宅した莉沙は、また夫のパソコンを調べて、既婚者アプリに入会しているのを発見。ログインしてみると、女性とのやりとりまで出てきました。「来週は妻優先のウィークです」「子作りがんばってください」「搾り取られてきまーす」などのえげつないメッセージに衝撃を受けます。夫は都合よく、家族関係の継続を希望していて、お互い割り切っている相手とマッチングしているようでした。夫の身勝手さにブチ切れる莉沙。いっぽうトレーナーの涼も家では不穏な日々で、情緒不安定な妻の凪子(山崎紘菜) のDVに苦しんでいました。登場人物はそれぞれ闇を抱えています。

 このドラマで気になって、興味本位でうっかり「既婚者マッチングアプリ」で検索してしまうと、スマホに広告が出るようになって、視聴者の家庭不和も招きかねません。(実際ニュースアプリに「既婚者SNS」の広告が表示) 視聴者に飛び火してスピンオフドラマが展開しそうです。

 このドラマでも、TVerで毎回ショートのスピンオフドラマ「そこらじゅうが地獄」が公開されています。第1話は「妊活崩壊!! 夫婦が壊れるとき」。妊活のためのルールに窮屈さを感じる夫側の本音が描かれていました。夫婦喧嘩の直後でも、排卵日の周辺なのでセックスしなければならない悲哀。夫が、既婚者マッチングアプリに逃避したくなる気持ちを理解しそうになります。ドラマ本編が約30分と短いので、もう少し観たいという思いをスピンオフドラマで満たすことができます。

 深夜ドラマは展開が早くて 続いて第2話のタイトルは「サレ妻 VS DV妻! 宣戦布告!」。莉沙は夫のスマホにGPSアプリを入れて、悶々とした思いを抱えたままジムに行きます。「証拠なんてあってもあの人には意味ないのかも」と、トレーナーの涼に打ち明けながら泣く莉沙。そんな彼女の涙を涼にタオルで優しくふいてあげていました。

 その頃、浮気夫は個室レストランで人妻の女性と密会。「僕は好きですからね、奥さんが」「こんなことしてるときが一番好きかも」と開き直っていましたが、テーブルの下では女性が足で下半身をまさぐっていました。

 いっぽう涼が帰宅すると、DV妻に刺されて病院に運ばれる……と、三者三様の地獄が展開。スピンオフドラマ第2話「パワハラ爆発! 告発の代償!」では、顔色が悪いパワハラ上司が「コンプライアンスも都市伝説みたいなもんだよ!!」「生産性知ってる!?」とキレ散らかしていました。「夏目漱石が肩こりって言葉を作ったから日本人は肩がこりはじめたの!」とパワハラの中に出てくる小ネタがちょっと気になりました。

 タイトルから想像はしていましたが、救いがほとんどないドラマです。このあとも、モラハラ美容外科医や托卵を企む女性などが登場し、ハードな展開が待っているようです。主人公の女性が、夫のノートパソコンがきっかけに、地獄に自分を追い込んでいったように、ドラマの地獄の展開にハマってしまうのも自己責任。むしろ、とくに刺激はないけれど自分の人生の方がまだマシだと思うことで、ドラマを観た後安眠できそうです。

今回ご紹介した作品

そこから先は地獄

放送
日本テレビ系にて毎週火曜24時24分~放送中
配信
huluにて配信中

情報は2025年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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