辛酸なめ子さんのドラマ批評 - 昼のゆめ another side

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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昼のゆめ another side

2026/1/16公開

BLドラマ「25時、赤坂で Season2」のスピンオフ

 テレ東の深夜に放送中のBLドラマ、「25時、赤坂で Season2」。大人気の漫画が原作で、芸能界が舞台の俳優同士のラブストーリーです。そのドラマの中の劇中劇が、スピンオフドラマ「昼のゆめ another side」として放映。「25時、赤坂で Season2」で結ばれた羽山と白崎が仲良さそうにテレビを観ているシーンから始まり、そのテレビの中のドラマとして展開する、というメタ構造的な設定です。ドラマの中では断片的だった劇中劇で、視聴者から全編見たいという声が多かったようです。画面の中の画面の世界を観る感覚で複雑ですが、ビジュアルが美しいのでいつの間にかストーリーに引き込まれます。

 主人公は、広告代理店で働く青年、哲平。そんな彼の働く現場に、配達員として現れたのが大和です。哲平の親友の涼二と拓海のカップルと三角関係になっていた男性で、哲平も密かに気になる存在だったようです。大和はタンクトップ姿で配達していてマッチョな二の腕がセクシーです。普通は会社の玄関先での対応になるところ、こうして社内の席まで届けに来られるのは、フレンドリーで魅力的だからでしょうか。

 ある日、暑い中配達に来た大和に「あのさ、これ」とスポドリを渡す哲平。大和も「座り仕事も大変だろ」と哲平をねぎらい、飴を渡すなど心温まる交流があって、距離が縮まってきます。

 あるとき、ケバブを配達しにきた大和。二人で一緒に食べることになり、大和は「うめえよ、食ってみる?」と自分のケバブを手渡します。間接キスになると密かに戸惑う哲平。現実世界にはなかなかいなそうなピュアな青年です。「こんな味あったんだ」と、違うソースのケバブのおいしさを知った哲平に、大和は「俺といると世界広がるだろ」とドヤ顔で言い放ちます。ソースの味という些細なことでも「世界が広がる」とまで言ってしまう大和のキャラは、日々成果を求められる哲平にとって、リラックスできる存在。住んでいる世界が違うからこそ、お互いが新鮮に見えます。大和は、涼二と拓海のカップルとグランピングに行く計画があるとのことで、哲平も誘われました。

 しかし、クライアントの急な路線変更で今まで進めてきた企画が白紙になってしまう、というトラブルが発生。哲平が深夜まで仕事をしていたら、大和がコーヒーを届けてくれて「たまには愚痴ってみるのもいいんじゃないの」と、アドバイス。哲平は大和に、いつも我慢して一人でがんばってきた辛さを吐露。「俺はずっと脇役なの。ごめん、こんな話して」と謝ると、大和は「だったら俺の前では好きなこと好きなようにやれよ。そういう相手が一人でもいればちょっとは楽になるだろ」と、哲平を励まします。広告代理店の仕事とは関係ない、別の角度からの助言ですが、熱意は伝わります。ちょっと見当違いだけれどそこがかわいい、と哲平の恋心を刺激したのかもしれません。

「旅行楽しみだな」と言う大和に、カップルとグランピングするのは気まずいと躊躇する哲平。「勝負しようと思ってるんだ」と、大和が漏らした言葉が気になります。もしかして、大和はかつて好きだった拓海に告白しようとしているのかも、と一人で想像を膨らませ、切なくなって大和に配達も頼まなくなってしまいます。

 数十分のドラマに、出会いから恋心の芽生え、いったん離れる、といった展開がぎゅっと盛り込まれています。しばらく二人は会わなかったのが、ある日「お前、なんで最近呼んでくれないんだよ」と、頼んでないのに会社に現れた大和。リアルにそんな配達員がいたら大問題ですが、やはりここはドラマです。

「好きにしていいんだよ、俺の前では」「好きなようになんて無理だよ」「お前といると痛いんだよ、胸が」「なんだよ、恋でもしたのか」といったエモいやりとりがあって、哲平を壁ドンする大和。懐かしい演出ですが、男性同士というのも新鮮です。勝手に会社に入ってきて壁ドンする配達員が現実にいたら怖すぎますが……。まだ、大和は拓海のことが好きだと思い込んでいる哲平は、大和に帰ってもらい、部屋で体育座りして落ち込んでいました。グランピングも行かないと返事をして、一人寂しく仕事することに。

 なぜかそれまでの経緯を見て知っていた会社の同僚たちに「あいつもお前のこと好きなのに」「お前も好きなんだろ、大和くんのこと」などと背中を押された哲平。ついにグランピング会場に向かって走り出します。会社の企画はどうなったのかと思いますが、同僚の恋愛を応援する広告代理店、というのもなかなか理解があります。

 グランピングのドーム型テントで、大和に「お前、拓海くんのこと好きなんじゃ……」と、気になっていたことを問い詰める哲平。「そんなのとっくに終わってるよ」「勝負って何だよ」大和は哲平の手を握ると「ロマンチックなとこで告ろうと思ってさ」と、打ち明けます。哲平も「あの日、お前がうちの会社に配達に来た時から、俺、お前のことが好きだ」と直球に告白。「俺もだよ」と言うと大和は攻めの本領を発揮し、ガバッと押し倒し、めくるめくベッドシーンに。若者は展開が早いです。

 短い時間の中、見たいシーンがコンパクトにまとまっていて満足度が高いドラマです。BLは、こんな男性がいてほしいいうファンタジーでもあります。現実世界に「恋をすると胸が痛い」とか「ロマンチックなところで告りたい」という男性なんてほとんど存在していないのでは、と思えます。美しい青年同士が理想の恋のシチュエーションを見せてくれる……深夜のBLドラマは、目の保養と夢心地と、現実への諦めをもたらしてくれます。

今回ご紹介した作品

昼のゆめ another side

配信
U-NEXTにて配信中

情報は2026年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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