辛酸なめ子さんのドラマ批評 - 鬼女の棲む家

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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鬼女の棲む家

2026/5/18公開

石田ひかりが「鬼女」を怪演

画像:鬼女の棲む家

©中京テレビ

 巨大掲示板から生まれたドラマというと『電車男』が有名ですが、どちらかというと心温まるラブストーリーだった記憶です。それから20年以上経ち、今の生きづらい世の中や、炎上しがちなネット社会を象徴しているようなドラマが出現。『鬼女の棲む家』というタイトルを見て、もしや……と思いましたが、ネット上の既婚女性掲示板(略して“既女”=“鬼女”)がヒロインのドラマと知って戦慄を覚えました。公式サイトにも書かれていましたが、かねてから「鬼女だけは敵に回してはいけない」と言われていて、彼女たちは探偵のようなリサーチ力で、成敗したい人物の個人情報を暴き出す、という恐ろしい存在なのです。

 その「鬼女」を怪演しているのが石田ひかり。ストーリーの面白さから台本を一気読みしただけあって、ノリノリで主人公の星野明香里を演じています。一見、平凡な主婦でスーパーでバイトしながら、2人の子供を育てる優しい母親の星野明香里は、家族には内緒で鬼女として活動しています。「私の心の中には鬼が住んでいる」というモノローグが流れてゾクッとしました。世の不正を許さず、ネットなどで炎上しそうなトピックを見つけると、わずかな情報からすぐに特定して個人ブログに投稿。そこから拡散していくのを眺めて快感に浸る、という流れです。ゆがんだ正義心や承認欲求が満たされることで、家庭でも機嫌よい母親でいられるのです。今は「既婚女性板」も、かつての盛り上がりはありませんが、16年前から「鬼女」として活動している星野明香里は、その快感にハマって、引き続き晒し上げや私刑に励んでいる、という設定です。彼女の胸によぎるのは、当時の成功体験の快感。主婦をバカにしたテレビ業界人を、既婚女性板の仲間たちと結託して血祭りにあげた、という一件です。謝罪会見をしているその業界人を見て「ふふふ、ふふふふ……」と笑いが込み上げます。ターゲットがボコボコにされる妄想に浸りながら料理を作ると、かなりおいしいものができて、家族も満足、というスパイラルが。もしかして今後の展開次第では、現代の既女板的な「ガルちゃん」民が出てきたり、「5ch」の住人と協力しあったりするのでしょうか。怖い半面楽しみです。炎上が頻発する日本で、このジャンルは話題が尽きないのでシリーズ化もできそうです。

 第1話では、迷惑系配信者のピエロによるいたずら動画配信を見て、正義心がうずいた星野明香里。早速調査に乗り出します。「どこかに必ず痕跡がある」と、鋭い目で動画をチェック。建物の特徴から住所、さらに発信者のIPアドレスまで割り出しました。そこから2人の男性の顔写真と本名を特定し、投稿。「あとはネット民がハイエナのようにたかって勝手に炎上してくれる」と、高みの見物をして満足げです「やっばり私はこの快感がないと生きていけない」と、実感する星野明香里。しかし彼女自身にも変なダイレクトメールが届き、不穏な気配です。

 第2話は、国民的人気俳優の裏の顔を暴く、というストーリー。バイト先の若い男子が、女優の彼女が人気俳優に性的暴行されて憤っているのを見て、成敗しなければという思いに駆られます。その俳優、手塚のSNSを見ても不倫や女遊びの痕跡は見つからず。でも「鬼女」の捜査はそこで終わりではありません。手塚の出演ドラマを調べて、2回以上共演している若手女優は深い関係かもしれないと推測。10人に絞ったあと、全員のSNSをチェックし、手塚の痕跡を探します。ついに、星野明香里は17歳の女優のSNSで手塚らしい写り込みを発見し、「きた!」と深夜のリビングで一人叫びます。「あぁ、脳汁が止まらない! この女から全部めくってやる」と、脳内麻薬(ドーパミン)が出まくっています。そして「晒してあげる」と、カチッとクリックして情報発信。「ふふっうふふふふ…アハハハハ!」と不気味な笑いが止まりません。久しぶりの主演で、鬼女のキャラをリアルに演じ切ってていて、お姉さんの石田ゆり子に何か影響を及ばさないか心配になるほどです。

 第3話では、子どもたちを押し除けて暴利を貪る転売ヤーに天誅を下します。転売ヤーのアジトを特定するテクニックがすごいです。動画に映った転売ヤーのポケットの鍵から、住んでいるマンションのブランドを特定。なんとこのとき、彼女は動画の中に入り込んで転売ヤーに近づいていました。イメージの中でのことだと思いますが、もはや超能力捜査官のようです。そのマンションのブランドと車庫証明のシールから世田谷区まで絞り込み、一棟一棟ストリートビューでくまなくチェック。ウェブ上で調べきれなかったので、現地調査までして、ついに転売ヤーのアジトを突き止めることに成功。帰宅してさっそく転売ヤーの個人情報を晒し上げます。「ふふふふ、私の火種がみるみる燃え広がっていく……」と、悦に入り、鼻歌を歌いながら料理をする星野明香里。いっぽうで、彼女自身を特定し、プライバシーを暴こうとする不気味なダイレクトメールも届いていました。部屋にこもりきりでネットばかりしている息子の存在も気になるところです。歪んだ正義中毒の虜になっている星野明香里も、因果応報的に晒され、炎上する日が来るのでしょうか。炎上は体験した人でないとわからない辛さがあります。

 それにしても、ドラマを観ているうちに特定の手口が学べてしまうのも恐ろしいところです。彼女がドラマの後半で自らの行動を反省する展開にならないと、逆に世間の鬼女やネット民たちが自らが正義だと思い込みそうです。石田ひかりの怪演と、因果応報の展開に期待したいです。

今回ご紹介した作品

鬼女の棲む家

放送
日本テレビ系にて毎週水曜24時24分~放送中
配信
hulu、U-NEXTにて配信中

情報は2026年5月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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