村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ボンベイ・ベイガム
-私たちのサバイバル-

2022/04/28公開

ニュースよりドラマを観るほうがその国がよくわかる。現代のインド女性を描く秀作

Netflixシリーズ『ボンベイ・ベイガム -私たちのサバイバル-』独占配信中

 カースト制度が残る反面、「最先端のIT大国」でもあるインド。相反する2つのイメージがあるインドの女性たちの仕事、家族、恋愛は実のところどうなのか?という疑問への答えを見せてくれるのが本作です。妻が夫の健康を願い断食する「カルワチョート」という風習が当たり前に行われていることや、独身女性はお断りの賃貸物件が多く、親と一緒に不動産会社の面接を受けるということを本作で知って驚きました。

 ドラマの舞台はインド最大の都市で、金融センターとしても知られるムンバイ。まだまだ女性蔑視の意識が根深く残るインドで、地方銀行の受付係から大手銀行のCEOに昇りつめた49歳のラニを中心に、様々な年齢、生い立ち、地位、経済状況、苦悩を抱えた5人の女性の生き方が描かれます。その中身は、どちらかというと保守的なのでは?という予想を鮮やかに裏切るストーリー。

 男性を追い抜き銀行のトップに立ったラニへの男たちからの嫉妬や嫌がらせ、再婚による義理の子どもとの関係の難しさから、夫より出世した女性の夫婦関係の変化、不妊治療の悩み、セクシャルハラスメント、不倫、同性愛、そしてドラッグの要素まで盛り込んで、自分の幸せについて葛藤しつつ、サバイバルする5人の姿を描きます。

Netflixシリーズ『ボンベイ・ベイガム -私たちのサバイバル-』独占配信中

 なかでも斬新だと感心したのは、ラニが更年期のホットフラッシュ(編集部注:ほてり・のぼせ)に悩まされる姿をしっかり描いているところ。重要な会議を中断してトイレに駆け込むシーンまでリアルに描写しているのです。

 また、元はムンバイ・クィーンと呼ばれたダンサーで、息子と暮らすため娼婦になったリリーも印象深い。子どもが差別されることに怒り悲しみ「私は汚れてない。尊厳を返して!」と闘う姿は、ステレオタイプではない娼婦像です。

 不倫をはじめ刺激的なシーンもありますが、ベースにあるのは「女性たちの心の痛み」。セクシャルハラスメントを受けた苦悩から、# MeTooの被害体験の告白、シスターフッド(編集部注:女性同士の連帯)への流れには胸のすく思いがしました。

 圧倒的な存在感で主役のラニ役を演じるのは、女優ながら近年は監督としての顔も持つプージャ・バット。自ら映画の製作現場という男性社会の中で経験してきたことも、今作の役作りに繋がっているのかもしれません。

 さらに、脚本、監督、制作総指揮に名前を連ねるのは、4人の女性が自由と夢を求めて葛藤する映画『ブルカの中の口紅』(2016年)を大ヒットさせ、第29回東京国際映画祭「アジアの未来」部門・国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞したムンバイ出身の女性監督アランクリタ・シュリヴァスタワ。

 国は違えど、同じ女性として胸を打つ台詞の数々に共感しきり。
絵の才能がある義理の娘に、「命をかけていいのは芸術。どこかの愚かな男じゃない」、昇進を辞退する女性の部下に「あなたの成功を阻む結婚に意味があるの?」というラニの言葉が刺さります。
 サリーにエルメスのバーキンを合わせるインドならではのファッションやゴージャスなインテリアなども含めて、現代の都会のインド女性への理解を深められる秀作です。

※文中の人名、風習名などはNetflix 公式サイト、日本語字幕と同様に表記。

予告編

今回ご紹介した作品

ボンベイ・ベイガム
-私たちのサバイバル-

Netflixで独占配信中

情報は2022年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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