地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
50㎡
2022/05/11公開
ドラマ輸出大国・トルコの傑作ハードボイルド。人情味あふれるトルコの市井の人々にも注目
Netflixシリーズ『50㎡』独占配信中
アジアのドラマ大国といえば韓国のイメージが強いですが、実は中東のトルコもドラマ制作に強い国なのです。松雪泰子主演、芦田愛菜の出世作ともなった坂元裕二脚本の『Mother』(2010)を『ANNE(トルコ語で母)』(2016)というタイトルで大ヒットさせ35カ国以上に輸出。日本でもハマる人続出の『オスマン帝国外伝~愛と欲望のハレム~』(2011~2014)は全世界で約8億人が視聴したといわれるメガヒット作になりました。
本作は、『オスマン帝国外伝』シーズン4でセリム皇子役を演じたエンゲン・オズトゥルクが主演。優柔不断なセリムから打って変わって、クールな殺し屋シャドーに扮します。
孤児であるシャドーは育ての親セルヴェに秘密兵器として育てられ、裏社会を生きてきました。しかし、両親の死の謎を辿るうちにセルヴェの秘密を知り逃亡。セルヴェは多額の懸賞金をかけて追跡します。そこでシャドーは、小さな街の仕立て屋の息子アデムに成り代わり身を隠すことになるのです。その店の広さが、タイトルの「50㎡」です。
命を狙う者からの逃亡劇と、いつ正体を暴かれるかという2重苦設定だけにアクション+ハードボイルドな展開なのですが、そこに両親の死に関するミステリー、さらに人情味とユーモアを加えたところが本作の魅力。
シャドーのキャラクターも、躊躇なく人を殺し浴びるように酒を呑むのに、徹底してグルテンフリーにこだわるところが可笑しい。仕立て屋の友人で面倒見のいいムフタルをはじめとした近所のオヤジたちの会話もちょっとズレていたり、とぼけていたりでクスッとさせます。
Netflixシリーズ『50㎡』独占配信中
モスクの献金箱から盗んだお金で偽造パスポートを作り、海外に高飛びするはずだったシャドーが、しだいに近所の人達と打ち解けていく。はじめてのお使いならぬ、はじめてのお墓参りに、証明写真撮影に戸惑いながら、ムフタルとその娘ディララの温かさに触れ、少しずつシャドーは変わっていきます。
「人生は戦い続ける。強いものだけが生き残る」という考えの持ち主だったのが、「世界はそう悪くない。美しさも存在している。人は見たいものを見る。(中略)美しいものを見つけろ。人生は答えてくれるぞ」というムフタルの言葉に心を動かされるようになるのです。
裏切りと暴力、非情な世界しか知らなかった主人公が、人情味溢れる人達に囲まれるうちに笑顔を見せるようになり、住民と一緒に悪徳開発業者から街を守るために戦います。
また、孤児という同じ出自を持つ少年ベアルと青年ヤクブのふたりを登場させ、シャドーの運命と対比させることで、育った環境の重要性も痛感させます。麻薬の売人の手先にされたベアルをシャドーは救い、ムフタルに育てられたヤクブは家庭の温かさを味わい育ちました。ところがシャドーは養父に刺客として教育され、普通の暮らしを知らずに生きてきたのが切ない…。
かたや、両親が揃った家庭育ちながら、サッカー選手になるためにある試合に人生をかけて、その時の怪我で脚が不自由になったシヴァンはコンプレックスの固まりに。幼馴染との結婚を熱望するも彼女に恋人がいることを知り怒りと絶望で悪人の使い走りとして利用される存在になり、とんでもない事態を引き起こすのですが…。
そんなシヴァンの葛藤から、シャドーの養父の後悔までがきめ細やかに描かれ、裏社会の逃亡者の苦難と人間性の回帰、登場人物の悲喜こもごもが交錯する味わい深い物語に仕上がっており、トルコドラマのエンタメ力に唸ります。
次のシーズンへと繋がるスリリングなラストは、もう手に汗握りっぱなしです!
※文中の人名、風習名などはNetflix 公式サイト、日本語字幕と同様に表記。
予告編
今回ご紹介した作品
50㎡
Netflixで独占配信中
情報は2022年5月時点のものです。