地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
君、花海棠の紅にあらず
2022/05/26公開
華流ドラマの大ヒット作。京劇の世界を舞台にした映像美は圧巻。
©2020 Huanyu Entertainment All Rights Reserved
中国ドラマといえば歴史大作や武侠ものが主流ですが、このところ精神的に深く繋がった男同士の友情を描く「ブロマンス」というジャンルが人気を呼んでいます。
本作もそのひとつですが、主演ふたりが最高にハマり役で、京劇をテーマにしたドラマティックなストーリーと家具や食器に至るまで中国の伝統にこだわった映像美で全力で推せる作品なのです。
舞台は1930年代の北平(現在の北京)。日中戦争が激しくなる激動の時代に京劇に人生を捧げた女形スターのシャン・シールイ(商細蕊)と彼の後ろ盾となる実業家チョン・フォンタイ(程鳳台)が絆を深め互いを支え合うストーリーです。
とにかく主演のふたりがまさにハマり役!劇団の主催者で圧倒的な人気を誇る花形役者のシールイ。歌唱力、演技力に秀で、衣装の刺繍の糸1本の乱れも許さない完璧主義の反面、金勘定には無頓着。舞台上ではキュッと口角が上がった妖艶な姿ですが、実は処世術とは無縁の真っ直ぐな性格で敵も多い。見かけによらず武術も得意で、本番前に好物の豚のすね肉を食べるのがルーティンの大食感なのです。
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そんな振り幅の広い役柄を演じるのは少年ぽさの残るイン・ジョン(尹正)。たくさん出てくる京劇シーンは名優から指導を受け特訓。歌唱は吹き替えですが、独特の表情から指先の動きまで繊細に再現した女形が高く評価され、中国最大級の視聴者評価賞「第29回華鼎賞」で主演男優賞を受賞。京劇を描いた名作『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993年)の故レスリー・チャン(張 國榮)の女形も見事でしたが、イン・ジョンはそれに匹敵する、いやそれを超える素晴らしさです。
一方、ビジネスで成功したチョン・フォンタイ(程鳳台)は、留学先の西洋では文学を専攻していましたが、父親が他界し後を継ぐために急遽帰国。苦労の末に富豪になり、元王族の豪邸に家族と多くの使用人と暮らしています。妻には商いの暗部は見せませんが、トラブルが起きたら非情な剛腕さも見せるタフなキャラ。
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演じるホァン・シャオミン(黃曉明)の正統派の二枚目ぶりと、大人の男の色気がダダ漏れな雰囲気が役柄にぴったり!20代からスター街道を歩み国民的俳優となった彼が40代になり、そのオーラに包容力が加わったからこそ演じることができた役どころです。まるでファッション誌のように様々なスーツを着こなすのですが、どれも粋!指輪を3つつけても嫌味にならずダンディなのです。
このふたりの関係が次第に変化していくのが見どころ。京劇に興味のなかったフォンタイが舞台を観て「彼の魂には厚みがある。繊細で豊か、全てを包みこむ」と心を奪われ、劇団のスポンサーに。感謝しつつもあくまで対等でいたいシールイは庶民の食べ物を贈り、行きつけの店で会食するのですが、フォンタイの口には合わない。気にせずパクパク食べるのをちょっと呆れながら見つめるフォンタイ。そんな微笑ましいシーンが何度も描かれます。
はじめはワンパクな弟を見守り助け諭す兄のようだったフォンタイ。でもラストの3話ではシールイが身体を張って立場が逆転。互いに相手を理解し高め合い家族以上の存在になった姿にホロッときます。
さらに、華やかな京劇シーンは秀逸で師弟関係や劇団のシステム、練習法や作品の制作過程などを絡めて描いているため、中国の伝統文化の学びが得られます。全49話の長編ですが人気ドラマランキング1位(2020年度上半期/マーケティング調査会社「猫眼(maoyan)」調べ)の面白さに加え、京劇の華麗さもたっぷり堪能できる「眼福」な作品なのです。
予告編
今回ご紹介した作品
君、花海棠(はなかいどう)の紅にあらず
DVD-BOX 発売中レンタル中のほか、以下の動画配信サービスでも視聴できます。
GYAO!
情報は2022年5月時点のものです。