村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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彼女の私生活

2022/08/01公開

ラブコメの女神パク・ミニョンがアラサーオタク女子を好演!

©STUDIO DRAGON CORPORATION

 コロナ禍、さらに戦火のニュースに心が痛い暮らしでストレスが溜まる一方。そんな時に幸せな気分にしてくれるラブコメは心のビタミンともいえます。ラブコメ大好物の私が過去3年で観たなかで、いちばんお薦めしたいのが本作。ラブコメの女神パク・ミニョンと正統派美男キム・ジェウクで30代の大人の恋愛を描き、かつK-POPの「オタク活動」がわかる貴重な作品です。

 ミニョン演じるソン・ドクミは表向きは完璧に仕事をこなす美術館の首席キュレーター(学芸員)ですが、実は裏の顔はアイドルの追っかけ。自らファンサイトを運営し、超望遠レンズで撮影した写真を公開し情報を発信する「ホームページマスター」(略してホムマ)とご当地で呼ばれるスーパーオタク。職場ではセンスのいいスーツで完璧に隠していますが、オタ活のときは黒子ファッションでミーハー度全開。その落差が激しすぎるヒロインを、さすがミニョンが鮮やかに演じ分けています。

 イケメンで作詞や歌手活動や日本語ができるスペックを持っているにもかかわらず、これまで恋愛ドラマではなぜか2番手だったジェウクが、クールさと繊細さを兼ね備えた画家で美術館の館長となるライアン・ゴールド役。『ボイス~112の奇跡~』(2017年)のサイコなモ・テグ役に背筋が凍ったこともありましたが、本作はカッコいい仕事姿からツンデレまで、もうこんなジェウクが見たかったというシーンが特盛です。

 恋愛パートに関しては、悪縁から始まり契約恋愛を経てやがて本物の恋人同士になる韓国ドラマ定番のストーリーラインですが、そこに前半は「推し活」がたっぷり加わり、クスクス笑いが止まらない!ドクミと親友の聖地巡礼(撮影現場などを見学に行くこと)をライアンが勘違いしたり、ドクミがオタクだと突き止めたライアンが彼女のサイトに女性ファンを装ってアクセスし熱い想いを知るなど、面白い展開で「オタク魂」を描きます。

©STUDIO DRAGON CORPORATION

 NHKの「あさイチ」でも取り上げられるほどポピュラーになった「推し」という言葉。ジャンルに関わらず大好きになった対象(推し)がいる人は、きっとドクミに共感するはずです。笑いのツボを刺激された後は、ふたりのイチャイチャシーンに目を奪われずにはいられない。とりわけジェウクの目線や手の動き、ひとつひとつの仕草がセクシーで、今まで封印していたものをここへきて大放出です。

 ミニョンのラブコメ代表作としてはパク・ソジュンと共演した『キム秘書はいったい、なぜ?』(2018年)があがりますが、相手役とのビジュアルを含めた相性は個人的に断然、本作だと感じました。

 もうひとり注目したいのがヒロインが働く美術館の元館長役キム・ソニョン。財閥の権力を傘にきてやりたい放題のキャラクターをコミカルに好演。

©STUDIO DRAGON CORPORATION

『愛の不時着』(2019年)の北朝鮮・人民班長役の垢抜けない姿とはまるで別人!突き抜けたモード系ファッションで登場しているのですが、服とヘアメイクの力でここまで雰囲気が変わると言う驚きのお手本となっています。

 後半は、これまたお約束のライアンの出生の秘密が意外すぎる展開ですが、恋も仕事も「推し活」も充実させるドクミに、見終わったあと自然と口角が上がる作品なのです。

予告編

今回ご紹介した作品

彼女の私生活

DVD
『彼女の私生活 DVD BOX 1&2』好評発売中
各18,700円(税込)
発売元:「彼女の私生活」パートナーズ
販売元:TC エンタテインメント
配信
以下の配信サービスで視聴できます。
Amazonプライムビデオ/Netflix/U-NEXT

©STUDIO DRAGON CORPORATION

情報は2022年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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