村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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次の被害者

2022/08/31公開

アスペルガー症候群の鑑識官が主人公の台湾発・社会派サスペンス

Netflixシリーズ『次の被害者』独占配信中

 台湾は日本より先に『流星花園(台湾版・花より男子)』(2001年)を大ブレイクさせたこともあり、恋愛や青春ドラマの印象が強いのですが、このところ社会問題に切り込むテーマの作品が高い評価を得ています。

 無差別殺人事件の被害者家族と加害者家族と弁護士の葛藤を描いた『悪との距離』(2019)は台湾のみならずアジアのアワードを複数受賞しました。

 本作はその『悪との距離』と同じ製作陣が手がけたNetflixオリジナル作品で緻密に練り上げられたストーリーかつ深いメッセージ性がある濃密なサスペンス。2020年に海外で最も見られた台湾の作品のひとつで、シーズン2の製作を決めた初の中国語オリジナル作品です。

 アスペルガー症候群の鑑識官ファン・イーレンは、変死連続殺人事件について捜査中、長年疎遠だった娘ジャン・シャオモンが事件に関与していることに気づきます。警察には内緒で鑑識官としての知識を利用して捜査を始めたイーレンは、手掛かりを持つ女性記者のシュー・ハイインと協力して真相を究明しようとするのですが… 。

 主役の鑑識官がアスペルガー症候群という知的障害を伴わない発達障害を持つ設定が本作のひとつのキモ。仕事に対して強いこだわりがある一方でコミュニケーション能力に難ありで、周りからは変わり者と見られ浮いた存在になりやすいのですが、本人は気づきません。妻と離婚し娘と疎遠になったのもその影響でした。

Netflixシリーズ『次の被害者』独占配信中

 1話から3話にかけて発見される死体がかなりグロテスクゆえ、心の柔らかい方は観るのに覚悟が必要かも。でも、猟奇的な連続殺人事件と思いきや意外な死のループが展開します。事件自体は衝撃的であるものの、その背景にはLGBTQへの差別、ブラック企業の過労死、利益優先ゆえの過酷な介護現場など、日本にも通じる現代の社会問題が描かれているのです。

 イーレンは女性記者ハイインとバディを組み情報交換する関係になり、その取材力や機転が効くところに助けられて捜査するうち、次第に共感性と社会性を身に着け、人の心に寄り添うことができるようになっていきます。一方、ハイインも一家心中から生き残った重い過去を抱えながら、抜きつ抜かれつのスクープの世界で踏ん張っていることが明らかになり、彼女が事件を追う理由が見えてくるのです。単なるサスペンスではなく、ふたりの背景がしっかり描かれヒューマンドラマとしても秀逸。

 とりわけ最終話のイーレンと娘との対話では、アスペルガー症候群の不器用な愛情表現ながら、娘のことを一番に大切に思っていたことが切実に伝わり胸が熱くなりました。

Netflixシリーズ『次の被害者』独占配信中

 イーレン役のジョセフ・チャンは空気を読まず無愛想で神経質そうなアスペルガー症候群のキャラクターを微妙な表情の変化で演じ、2020年第25回釡山映画祭に併設された「アジアコンテンツアワード」で最優秀男優賞を勝ち取りました。

 全8話と長過ぎず短すぎず、心にズシンとくるヒューマンサスペンスの秀作。今後、高い確率で米国などでリメイクされそうな予感がします。

今回ご紹介した作品

次の被害者

Netflixで独占配信中

情報は2022年8月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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