地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ウ・ヨンウ弁護士は天才肌
2022/09/07公開
自閉スペクトラム症の新米弁護士が仕事に恋に奮闘
Netflixシリーズ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」独占配信中
これまで自閉症をテーマにした作品といえば、韓国がオリジナルで米国、日本、トルコでリメイクされた『グッド・ドクター』(2013年韓国初放送)など男性が主役のシリアスな社会派が人気を集めてきましたが、本作はひと味もふた味も違う面白さです。
いちばんの特徴はキュートな女性弁護士ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)が主人公というところ。重いテーマを扱いながらもコミカルさとファンタジー色が加わったエンタメ度が高い作品に仕上がっています。
自閉スペクトラム症で抜群の記憶力を誇るヨンウはソウル大学の法学部を首席で卒業し、父親のコネでなんとか事務所に所属しますが、自閉症のため対人関係が苦手で、共感性も不足気味。でも偏見や差別にもさらされながら、誰も気づかない法律の抜け穴や細部を発見して事件を解決していく手腕は見事で一目置かれるようになっていきます。
その一方で初めて心を動かされる男性に出会い、相手の気持ちや立場を考えるようになるのです。ヒロインが仕事を通じて成長しつつ、徐々に恋する気持にも目覚めるヒューマン法廷ドラマ。
とにかくヨンウのキャラクターが可愛いくて面白い。パタパタ小走りしたり、キョトキョトンした仕草や表情がキュート。大好きな鯨のことを早口で語り出したら止まらない。ヨンウが閃めくと鯨が海からジャンプするシーンが挿入されるなど映像もユーモラス。
Netflixシリーズ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」独占配信中
韓国では障がいを軽く扱うことに抵抗もあったようですが、自閉症への理解の裾野を広げるのにとても役立った作品。ヒロインを魅力的に描くことで、多くの人に平たく伝えるきっかけになりました。
とはいえ、扱う事件は辛口。なかでも同じ障がいをもつ加害者や被害者を登場させたエピソードに心を揺さぶられます。
第3話「ペンスでいきます」は自閉症の弟が医学生の兄を殺害した容疑者に。被告となった弟に「医学生の兄が死んだのは社会的損失」と世間は非難し、兄弟の両親の複雑な思いに胸が痛い。
第10話「手をつなぐのはまた今度」は知的障害を持つ女性へのセクハラを取り上げています。彼女にカードを作らせて貢がせ、性的に搾取したと訴えられた被告。その真実は?
本作はヒロインを含め障がいを持つ人の恋愛に問題提起したことも新しい試みだといえます。
ヨンウと事務所の訟務チームのメンバー、爽やかイケメンのイ・ジュノ(カン・テオ)のゆっくりゆっくり進展する関係が微笑ましい。クスッと笑えるハートウォーミングなシーンに癒されます。でも、ヨンウとの交際に「覚悟が必要」とジュノは考え、ヨンウは「彼を幸せにできるか」と悩み、なかなか一筋縄ではいかず…。ラストまでもどかしい気持ちを引っ張るのです。
Netflixシリーズ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」独占配信中
それにしてもカン・テオ、本作終了後のタイミングで兵役はホントもったいない。これまでのキャリアで最高に輝いているときに~。せめて、もう1作観たかった!
深いテーマを面白いストーリーに落とし込み、見終わったあとじんわり考えさせる脚本は2年がかりで練りあげられました。脚本家のムン・ジウォンは前作の映画『無垢なる証人』(2019年)でも自閉症の女の子をヒロインにしており、同じテーマを引き続き追求。さらに、ヨンウ役にはパク・ウンビンしかいないと1年がかりで口説き落とし、完全度の高い脚本に念願のキャスティングで、『イカゲーム』(2021年)に続く大ブレイクを達成しました。
Netflixの配信で、日本、韓国、台湾、香港、シンガポール、ベトナムでランキングの1位を獲得。アメリカ、イギリス、オーストラリアでもTOP10入りの快挙です。
最終回が続編を想定した中途半端な終わり方ではなく、伏線を回収したきれいな終わりだったのも清々しい。
韓国では続編を熱望する声が高まり、ミュージカル化も決まるなど、まだまだウ・ヨンウ人気は衰えることはなさそうです。
予告編
今回ご紹介した作品
ウ・ヨンウ弁護士は天才肌
Netflixで独占配信中
情報は2022年9月時点のものです。