村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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シスターズ

2022/11/14公開

陰謀に巻き込まれる貧しい三姉妹の絆

 あの『若草物語』をベースにした作品という予備知識から、慎ましく暮らす姉妹の話かと思いきや、想像の遥か斜め上を行く貧困と大金を巡る生温さの一切ない衝撃作でした。

 Netflix 非英語シリーズの世界ランキングで3位に入るほどの大人気作。2022年10月19日に発表した週間グローバルTOP10(2022年10月10日~16日集計)では、日本のテレビ部門で4週連続で1位を獲得しています。

 そんな世界中を魅了する面白い作品を生み出したのが、映画『お嬢さん』(2016年)で異彩を放つヒロインを手掛けた脚本家チョン・ソギョン、『お嬢さん』の独特の美しい世界を作りあげたリュ・ソンヒ美術監督、再放送や続編の要望が殺到している『ヴィンチェンツォ』(2021年)のキム・ヒウォン監督と、すべて女性のドリームチームだったのも嬉しい驚き!とことん先読みできないストーリー、印象的なセットデザイン、目を奪われる演出、かつ女性の感性と視点が生かされた共感度の高い作品なのです。

 三姉妹役は長女が『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(2016年)主演の高校生から大人になったキム・ゴウン、次女が子役出身で『100日の郎君様』(2018年)が代表作のナム・ジヒョン、三女には映画『はちどり』(2018年)主演で絶賛されたパク・ジフ。演技力では定評のある3人の競演に心を掴まれます。なにしろ、ここまで女優メインで男優が脇に回った作品も稀有。なんとスタッフ、出演者を含め70%が女性だったそうで、大ブレイクはシスターフッドパワーの賜物といえそうです。

 ここからネタばれありです。

 建設会社の経理で働くバツイチの長女インジュ、テレビ局の報道記者・次女インギョン、芸術高校に通う三女のイネの三姉妹と母親は借金まみれでフィリピンにいる父親のせいでお金に苦労する生活を強いられていました。イネは修学旅行を諦めるが、姉たちはお金を出し合い参加させようとするも、母親が父親のもとへ行くため持ち逃げ。そんなとき、インジュが姉のように慕っていた先輩ファヨンの自殺が判明。やがてファヨンが会社から700億ウォン(約70億円)もの大金を横領していたことが発覚し、インジュは上層部から秘密裏に消えた裏金の行方を調べるよう命じられるのです。

 一方、インギョンはソウル市長選候補である弁護士パク・ジェサンが、過去に弁護した4人が全員、自死で亡くなったことに疑惑を抱き、取材を始めていくのですが…。

 インジュは学歴主義の強い韓国で短大出でゆえ社内で下に見られ、服装にもお金をかけられず孤立しています。成績優秀で報道記者となったインギョンは台風の現場取材も懸命にこなすのは「貧乏人だから我慢強い」と侮蔑され、絵の才能があり実力で有名芸術高校に入った三女のイネは、同級生(パク・ジェサンの娘)の代わりに絵を描き、ゴーストペインターとして報酬を受けとるなど、貧しいゆえ悔しさやコンプレックスを溜め込む三姉妹。だからこそ絶大な権力を持ち陰謀を企む富裕層パク・ジェサン一家との対比が浮き彫りになり、後半の加速するスリリングな対決にハラハラが止まりません。

 ハイヒールがストーリーの需要なパーツのひとつなのですが、合皮の安物のヒールしか履いたことがないインジュが初めて最高級ブランドを履いたときに「脚が痛くない!」と感激するシーン、上等なコートを買いたい理由を「貧しさは冬の服に表れます。夏は何とかごまかせても、冬服は高価ですから」と言う台詞など貧富の差を鮮やかに女性目線で描くシーンは女性脚本家ならでは。裏金の中から20億ウォン(約2億円)の現金をファヨンから受け取ったインジュが最初に大量に買うのがアイスクリームやリップグロスなど少額のもの。そんなちょっとした贅沢にもブレーキをかけていたインジュが裏金が絡む闇の世界に巻き込まれ、最終的にお金との関係を自分自身に問い直すところが非常に考えさせられます。

 監督はインタビューで本作の魅力を、「みんなが共感できる現実と神秘的な想像が共存する作品」とし、「とても小さくて素朴に始まる話のようだが、その下に巨大で深いものがある」と話していますが、巨大で深いものがもう壮大すぎる!

 ミステリー&サスペンスにコンゲームも加え、独親、愛憎に復讐劇、政財界の不正まで詰め込み圧巻の面白い作品に仕上げながら、あえて恋愛要素を薄くしたところがいっそ清々しく新鮮なのです。

今回ご紹介した作品

シスターズ

Netflixにて独占配信中

情報は2022年11月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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