地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
摩天楼のモンタージュ
2023/03/13公開
タワーマンションを舞台にした華流ミステリー
ここ数年、中国ドラマの現代劇は韓流に追いつけ追い越せでエンタメ力をつけてきました。恋愛ものでは韓流ラブコメのような作品が増えている一方で、高く評価されているのがミステリー・サスペンスなのです。
とりわけ2020年は『バッド・キッズ 隠秘之罪』、『ロング・ナイト 沈黙的真相』といった秀作が誕生しましたが、本作もそのひとつ。台湾の人気小説をドラマ化。謎解きに加え、現代女性の目線から家庭や社会の問題に切り込んだ深いテーマが注目され、中国最大のレビューサイト「Douban」で8.1の高評価を獲得。また、4日連続で配信ドラマランキング1位を記録しました。
アジアいち美しいと称されるモデル&女優のアンジェラ・ベイビー主演を全面に押し出し、タワーマンションを舞台に、アンジェラ演じるヒロインの死が物語のきっかけとなる密室型ミステリー・サスペンス。
アンジェラをウリにしていますが、なんと第1話で遺体として発見される驚きの設定。その後は回想シーンに登場で出番は少ないのですが、波乱に満ちた不幸な背景を持つキャラクターを熱演し、これまでは外見にばかりスポットが当たり、演技に関しては辛口な評価を受けていたのですが、本作でようやく見直されました。
タワーマンションで突然の停電があった夜、マンション1階のカフェを経営する住民のジョン・メンバオ(アンジェラ・ベイビー)が遺体となって発見されます。警察の調べによると、部屋の鍵が壊された形跡はなく、彼女は頭部に外傷を受けた後、一酸化炭素中毒で死亡。
そこで事件担当となったベテラン刑事のジョン・ジングオ(グオ・タオ)と新人女性刑事のヤン・ルイセン(ヤン・ズーシャン)は、同じマンションの住民や関係者にひとりずつ事情聴取を行ないます。
そこから浮かび上がってくるメンバオの人物像は証言者によって異なるのです。果たして彼らの証言は真実なのか嘘なのか?謎が深まる中、しだいにメンバオの隠された過去が明らかになっていきます。
マンションの警備員、住人の建築士とその妻、不動産仲介の男とその元妻&愛人、隣に住む小説家、お手伝いさん、そしてメンバオの家族…。
密室でのメンバオの死の真相を解明するため、男女刑事コンビがひとりひとりを事情聴取。それぞれメンバオとの関係と事件当日のアリバイを探るのですが、みんなどこか怪しい。ここからネタバレありです。
真相究明の過程も二転三転で面白いのですが、証言者たちの自分語りの「苦い人生」からいまの中国社会の暗部が見え隠れします。
元銀行員だった警備員は交通事故を起こしたせいで貪欲な被害者に何度も金銭を要求されエリートから転落していく。母子家庭育ちの建築士は有名建築家の師匠の娘と結婚。しかし、結婚パーティーでは母親に用意されていたのは末席。彼は何かと屈辱を味わうのです。
みんな平等の共産主義のはずが、お金や名誉に支配され格差が広がっていく。
しだいに証言から明らかになるメンバオの過酷な生い立ち。母親が義父から受けていた激しい家庭内暴力。母親は典型的な暴力夫にマインドコントロールされていましたが、ピアノの才能がある息子とメンバオのために、母親に手を差し伸べる女医の手を借りて、新天地で暮らそうとするのですが…。
最後に問われるのは、「善人がやむに止まれず犯した証拠がある罪」と「悪人が極悪非道に犯した証拠のない罪」はどう裁かれるべきなのか?です。この問題提起には深く考えさせられずにはいられません。
シリアスなドラマの中に挟みこまれる刑事ジングオのとぼけた味わいと、捜査に没頭しすぎて恋人との約束を後回しにする女性刑事ルイセンのエピソードが程よい「和み」になっており、ラスト近くで明かされるジングオの秘密にも心が温かくなります。
中国ドラマは現代劇でも50話超えのやたら長いものが大半ながら、本作は全16話にギュギュッと濃縮で取っつきやすく、実際にタワーマンションで撮影されたこともあり、中国の「今」が見えてくる作品でもあるのです。
今回ご紹介した作品
摩天楼のモンタージュ
- 配信
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情報は2023年3月時点のものです。