村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ザ・グローリー ~輝かしき復讐~

2023/4/4配信

全世界で1位を獲得。ドロドロ復讐劇の最高峰。

Netflixシリーズ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』シーズン1,2独占配信中

 仕事柄、各国の作品をチェックしているなかで、やっぱり韓国ドラマは凄い!と唸りっぱなしだったのが『ザ・グローリー~輝かしき復讐~』(以下、『ザ・グローリー』)です。昨年11月にこちらの連載で韓国の『シスターズ』を取り上げたときは、これ以上の作品にはなかなか出会えないと思ったのですが、なんと出会ってしまいました!

 韓国屈指のヒットメーカー、キム・ウンスク脚本と恋愛ドラマの女神ソン・ヘギョが組んだ初の復讐劇『ザ・グローリー』はパート1(1~8話)の配信後、パート2を待ちに待った視聴者の後押しでNetflixでの公開初日(3月10日)に全世界26カ国1位を記録。もはや復讐劇は韓国ドラマの一大ジャンルでこれまでさまざまなパターンの作品が登場していますが本作はそのなかでも最高峰だと言っても決して言い過ぎではないほど。

 高校時代に受けた壮絶な「いじめ」で身体と心に深い傷を負ったヒロインの復讐劇ですが、18年かけて綿密な戦略を練りに練り、自らの手をほとんど汚さず加害者を絶望の淵からさらなる地獄に突き落とす。知力と行動力を駆使した報復は炎で溶かすドロドロ系ではなく、ドライアイスで凍傷させるような冷酷さです。ここからネタバレありです。

Netflixシリーズ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』シーズン1,2独占配信中

 娘より男に走る自分勝手なシングルマザーの貧しい家庭で育った女子高生ムン・ドンウン(ソン・ヘギョ)は、将来、建築家になる夢を持っていました。しかし、あるとき男女5人のクラスメイトから壮絶な「いじめ」のターゲットにされます。

 この「いじめ」がもはや虐待、拷問レベル。反抗させないためヘアアイロンを身体に押し付けられ、ドンウンの身体には火傷痕が残ります。(これが韓国で実際にあった「いじめ」だというから恐ろしい!)

 しかし、加害者の主犯格の親が実力者の特権階級で、学校も警察も見て見ぬふり。ドンウンはこの地獄から抜け出すために退学することに。退学理由に「いじめ」のことを書いたのですが、加害者の親から大金を受け取った母親が事実をもみ消し失踪してしまうのです。

 その結果、身も心もボロボロになったドンウンは、その後工場に住み込みで働きながら必死で勉強を続け大学を卒業。小学校の教師になり故郷に戻ってきます。ドンウンが教師になるため懸命に努力したのは綿密で長期的な「復讐計画」のため。イジメの主犯格のパク・ヨンジン(イム・ジヨン)とその仲間を社会的に葬るためでした。

 積年の恨みを果たすためドンウンの復讐劇が始まるのですが、加害者チームに対抗して彼女を助ける強い味方の存在がありました。ひとりは夫の酷い家庭内暴力から娘を逃がす約束でドンウンに協力するカン・ヒョンナム(ヨム・ヘラン)、もうひとりはドンウンに恋心を抱く医師チュ・ヨジョン(イ・ドヒョン)。彼には犯罪者に病院長だった父親を刺殺される辛い過去があったのです。ふたりはドンウンと同じく被害者。ただの復讐劇ではなく加害者チームと被害者チームの戦いというところが、本作が目新しくより面白い理由のひとつなのです。

 とりわけ現在は人気お天気キャスターとして活躍し、大手建築会社社長の妻で可愛いひとり娘を溺愛しているヨンジンをジワジワ恐怖に落とし入れる手腕が見事。ヨンジンの娘の小学校の担任になり、囲碁が趣味の夫に接近するため腕を磨き、娘が実の子ではないことを悟らせるのです。

Netflixシリーズ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』シーズン1,2独占配信中

 夫にも娘にも過去の「いじめ」を知られてしまったヨンジンは、それでも「私は悪くない!」と逆ギレ。彼女は痛みを感じない先天的無痛症のように罪悪感を一切感じないモンスター。そんなヨンジンへの復讐は、一切の味方を排除し過去の罪を償わせる。刑務所でおもちゃにされ続けるであろう哀れな姿に溜飲が下がります。

 この結末も良き。加害者の最期としてありがちなのが自殺や事故、精神疾患ですが、それだと視聴者の怒りが燻ったまま。また、被害者が復讐を終えたあと自殺するのもよくあるラストですが、本作はドンウンが次なる使命を得てしっかり生きていくところも良きです。

 もともと高校生の娘から「私がいじめの加害者と被害者、どちらになるほうがいい?」と問われたことがきっかけで本作を書いたキム・ウンスク脚本家ですが、高校時代から長きに渡り伏線を全て回収し、校内暴力、家庭内暴力、毒親問題まで絡めて完成度の高いストーリーを構築。恋愛ドラマの名手からさらなる進化を遂げました。

 笑顔と“華”を封印して人生を復讐に賭けたヒロインを演じたソン・ヘギョの石原さとみがいきなり天海祐希になったぐらいの「凄み」を感じさる冷徹な存在感にもシビれました。

 『ザ・グローリー』で極上のタッグを見せたふたりにひたすら敬服しきりです。

予告編

今回ご紹介した作品

ザ・グローリー ~輝かしき復讐~

Netflixにて独占配信中

情報は2023年4月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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