2023/6/15配信

英国・日本・韓国。お国柄が表れたドラマづくり

　この4月にスタートした稲森いずみ主演、不倫夫への復讐ドラマ『夫婦が壊れるとき』（日本テレビ）は深夜枠にも関わらず5話以降は放送後からTVerドラマランキングで1位を獲得するほど大反響で、その韓国版『夫婦の世界』も新たに注目を集めることとなりました。

　実は本作のご本家は英国の『女医フォスター 夫の情事、私の決断』（原題：『Doctor Foster』）。実力派女優サランヌ・ジョーンズ主演で2015年と2017年にBBCで1時間×5話づつ全10話で放送され、英国アカデミー賞（BAFTA）などで主演女優賞に輝いた人気作。

　それを2020年韓国でリメイクしたのが『夫婦の世界』です。ケーブルテレビ局JTBCであの『梨泰院クラス』（22）の後番組として始まっただけに注目度抜群で、地上波より規制が少ないため刺激的な描写も満載でケーブルテレビドラマ史上最高視聴率28.4%を記録し社会現象を巻き起こしました。日本版は原稿を書いている時点で10話まで観ましたが、英国、韓国、日本版を比べてみるとやはり韓国に軍配が上がります。登場人物もストーリーもほぼ同じですが、英国版はお国柄かジメッとした心理劇で、ヒロインの女医の情緒不安定さが全面に漂う印象です。日本版は1話30分と半分の放送時間で展開が早いぶん、どうしても各エピソードが薄まって没入感が足りないのは致し方ないところ。しかし、日本人らしく感情表現を抑えめにしたところは共感度が高いと思われます。

　やっぱり、こういう修羅場の愛憎劇は韓国の得意ワザ。しかも1話約80分で全16話（オリジナル版）と長尺でじっくり主演から脇役までの心理を深掘り。ストーリーに深みを持たせとことんドラマテックに盛り上げます。さらにアジアのラテンと称される韓国らしく激情が炸裂。加えて、セットや衣装にもかなりお金を投入しており富裕層のゴージャスな暮らしぶりが垣間見える演出です。

　日本版が繊細な京漬物だとすると韓国版はまさにコクと辛味のある刺激的なキムチ。郊外の病院で副院長を務める女医チ・ソヌ（キム・ヒエ）は、富と名誉を手に入れ、愛する夫と息子に囲まれ順風満帆な日々を送っていました。そんなある日、映画監督の夫イ・テオ（パク・ヘジュン）のマフラーに１本の長い髪を見つけ疑惑を持ちます。ソヌの疑いどおりテオは若いピラティス・インストラクターのヨ・ダギョン（ハン・ソヒ）と浮気。しかも、そのことはソヌの周りの友人や同僚には周知の事実だったのです。傷つくソヌの前にダギョンが診察に訪れ、検査の結果、ダギョンはテオの子を妊娠していることが発覚。全てを知ったソヌの壮絶な復讐劇が始まる…。こんなふうにあらすじを書くとありがちな不倫ドロドロ作のようですが、前半は妻の復讐、後半は夫の報復という構成が斬新で見事。友人、仕事の関係者、愛する息子まで巻き込み互いに「やられたらやり返す」ストーリーは最後までスリルと緊張感が張り詰めるサスペンスともいえる展開です。

　凛とした女医ソヌが、夫への疑惑から浮気確定、復讐のために策略を練り、医師としての倫理観を曲げる行動にまで走る。プライドの高いソヌの怒り、悲しみ、失望、反撃を韓国を代表する女優のひとりキム・ヒエが50代とは思えない美貌と迫力で交錯する感情を表現し、2020年百想芸術大賞テレビ部門・女性最優秀演技賞を受賞しています。かたや夫テオは歳上の妻に金銭的に支えてもらいながら浮気相手に貢ぎ、「心はそんなに単純じゃない。結婚してたって恋はする。ソヌとタギョンでは愛の種類が違うんだ。俺だって苦しい。どっちも愛しているんだよ」と自分勝手な“キング・オブ・クズ”ぶりが女性をムカつかせずにはいられない。演じるパク・ヘジュンは44歳で掴んだ初主演ながら、あまりの憎まれ役に出演を躊躇したそうですが、見事に「国民的不倫男」と評された役をやり遂げ高く評価されました。

　ちなみに韓国では「とんでもないダメ男だけどセクシー」という女性の声が高かったのも納得の影のある色気を漂わせています。権力者の娘でソヌに果敢に攻撃を仕掛ける愛人ダギョン役ハン・ソヒは前半はお嬢様、後半は落ち着いた妻とイメージを変えて大先輩に負けじと好演。本作で一皮剥けたと評判に。

　日本版では同じく50代とは思えない稲森いずみが激情を爆発手前で小出しにして奮闘、夫役吉沢悠はパク・ヘジュンのセクシー度には届きませんが優柔不断男を繊細に演じています。愛人役の優希美青も熱演ながら、かわいい路線のファッションはちょっと違和感でした。

　日本版を観ている人は、ぜひ韓国版も観てその違いを知ってほしい。比較文化論的にお国柄がよくわかります。