地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
模仿犯
2023/7/20配信
宮部みゆきのベストセラーを台湾でドラマ化
ここ数年、国境を越えたリメイク作が増える中、『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』(2022年)や『夫婦の世界』(2022年)などリメイクに関しても、爆発的にヒットさせる手腕はやっぱり韓国が最強と確信していたのですが、ここへきて台湾がやってくれました!
宮部みゆきの長編ベストセラー小説『模倣犯』を3年がかりで全10話にドラマ化した本作が、台湾ドラマの記録を打ち破り、Netflix 世界25の地域でトップ10にランクイン。これほど広い世界市場への展開は台湾ドラマとしては初めての快進撃なのです。
日本では2002年に悪役ピースを中居正広が演じ、鬼才・森田芳光監督が映画化して賛否両論を呼びました。2016年のドラマスペシャル版では同役を坂口健太郎が演じ注目されましたが、台湾版と原作とこれまでの映像化との大きな違いは検事グォ・シャオチという存在。この原作には存在しないキャラクターが主人公となり、連続誘拐殺人事件のストーリーの要になることで、視聴者がグォ検事の気持に寄り添い没入感を高める仕掛けとなっているのです。
また、現代のようにスマホもなくインターネットも一般的でなかった1990年代を舞台にすることで作品がノスタルジック色を帯び、視聴者に90年代の懐かしい感覚を呼び戻してくれます。
1990代の台湾。検事グォが一家皆殺し殺人犯として逮捕された少年を救う話から物語は始まります。このエピソードは徹底的な捜査で”偏屈検事”と呼ばれる彼の人柄を端的に説明するための伏線でした。
ある日公園で、赤い箱に入った切断された女性の手首が発見される。それが一連の事件の幕開け。その手首にある形跡から、グォ検事は過去に銀行員の女性ジャン・ユーピンが殺害された事件との類似性に気付きます。
ユーピンを殺害した犯人はすでに自首して刑務所に入っていましたが、再度、取り調べを行ったグォ検事は犯人が誰かをかばっているか共犯がいたのではと推察。
親友ユーピンを失ったテレビ局の記者ルー・イェンジェンは、グォ検事の捜査に協力することに。そんなとき若い女性が立て続けに行方不明になり、グォ検事の相棒である主任刑事リンの娘も事件に巻き込まれていくのです……。
グォ検事には家族が殺害されたという重く悲惨な過去があり、さらに事件を追う主要登場人物全員が被害者や被害者の関係者という重い設定ですが、それだけに事件が視聴者の心にずっしり刺さります。
頭痛のため鎮痛剤を度々、服用しながらもがむしゃらに捜査するグォン検事を演じるウー・カンレンがまさにハマり役。かつてはアイドルドラマにも出演していましたが、2016年から二年続けて金鐘奨と台北電影奨の主演男優賞受賞の実力派に成長し、40歳となった今だからこそ出せるまろやかな渋味と深味が際立ちます。
役作りにはかなり苦労したそうで本物の検察官を訪ね、「この人物の持つ共感、思いやりを如何にシーンや場面に表現するか考えた」と試行錯誤したことを明かしているのです。ちなみに以前は日本に住みたいと思っていたほど日本好きとは親近感が沸きます。
後半は仮面をかぶった連続殺人犯ノウがテレビ局に自ら連絡し、メディアと世論を煽り人々を恐怖に陥れていくなかで、殺人鬼ノウの模倣犯が乱立するというタイトルどおりの展開に。これが現代はもっと安易に、迷惑行為を行いSNSで動画をアップする「飲食店テロ」など模倣犯が拡散するスピードが早くなっているため、もしノウが現実に現れたらと考えると恐怖しかありません。
被害女性は監禁され暴行を受けているため、事件はかなり凄惨で心の柔らかい方が観るには覚悟が必要ですが、最後は残された人々が未来へ向かってたくましく生きていく姿が描かれ、見終わったあとはホッと心穏やかになれるのでご安心を。
サスペンス要素だけでなく、主人公や遺族の葛藤などヒューマンドラマの要素や情報社会へのアンチテーゼなど、深いメッセージが込められた見応えたっぷりの台湾版は、進化系『模倣犯』と呼びたいリメイク作なのです。
今回ご紹介した作品
模仿犯
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2023年7月時点のものです。