地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
大叔的愛(香港版「おっさんずラブ」)
2024/1/11配信
本家とは違う面白さに出合えるハートフルコメディ感強めの香港版
日本におけるBL(ボーイズラブ)というジャンルの認知度を底上げしたのは、間違いなく2018年に大ヒットしたドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日)でしょう。田中圭、林遣都、吉田剛太郎が恋のバトルロワイヤルを演じた同作は、同年の新語・流行語大賞にも選ばれ社会現象になるほど大ヒット。来年1月には続編『おっさんずラブ リターンズ』が放送され、すでにSNSにはファンの歓喜のコメントが多数上がっています。
また、今年の冬にはタイでリメイク第二弾『Ossan’s Love Thailand(仮題)』が放送されることも明らかになりました。タイ版はあの青春BLラブコメ『2gether』を大ヒットさせたGMMTVが制作するとあって期待が高まっているのです。
リメイク第一弾である香港版の本作は、2021年に『大叔的愛』のタイトルで現地の放送局ViuTVで放送され開局以来のドラマ最高視聴率を記録しました。これまで香港では男性同士の恋愛を描くドラマはなかったのですが、本作のおかげで「そんな関係があってもいい」と幅広い年齢層の視聴者に受け入れられたのです。
大ヒットの理由は人気ボーイズグループ「MIRROR」(ミラー)のイードン・ルイが田中圭が演じたポンコツ独身サラリーマン・春田創一役で、アンソン・ローが林遣都が演じた春田に恋する後輩の牧凌太役にキャスティングされたことも多大な影響を与えました。日本ではまだあまり知られていませんが、MIRRORは香港ではかつての人気絶頂のSMAPのような存在。そのメンバーふたりの共演となれば、話題性も抜群! しかも、見事に役柄にハマる熱演が大好評でした。
加えて、吉田剛太郎が演じた春田へのピュアな恋心を隠し持つ上司・黒澤武蔵を演じるKK役のケニー・ウォンは出演作多数のベテラン俳優ですが、吉田に引けをとらない振り切った演技で大ブレイク。
ヴィクトリア・ハーバーなど香港の絶景を活かしたロケ地選びも成功の要因になりました。
もうひとつ、香港市民にとって2021年は香港国家安全維持法(国安法)による民主活動家の逮捕が相次ぎ、絶大な人気を誇った民主派の日刊紙「蘋果日報」が廃刊に追い込まれるなど厳しい年でした。中国共産党の存在感をまざまざと見せつけられ、これまで長年統治してきた英国的な価値観を享受していた市民の間では「香港は死んだ」と囁かれていたほど。
そんなときに、超人気スターのタッグで男同士のまっすぐな恋愛をコミカルに描いた本作は、ひととき辛い現実を忘れる癒しになったことも高視聴率に繋がったに違いありません。
作品自体はオリジナルがしっかりリスペクトされ、香港版では春田創一が「田一雄」、牧凌太が「凌少牧」と役名も日本版に寄せており、田一雄が後輩の凌少牧と上司のKKのふたりから告白される戸惑いとすったもんだの展開も同じです。屋上でのバトル場面や香港の夜景にハートマークのライトを光らせるなど、日本版を忠実に再現して楽しませてくれます。
香港版のいちばん大きな変更は、新エピソードが追加されたこと。オリジナルは全7話でしたが、15話に拡大することで本家にはないエピソードが随所に盛り込まれているのです。春田の幼なじみや黒澤部長の妻など脇のキャラクターも詳しく描いているのですが、最も顕著な違いは凌少牧と本家では武川(眞島秀和)の役どころとなる元彼ダレンに“ある設定”が加えられており、なぜダレンとの別れを選んだかがわかるところも見どころのひとつ。
日本版にものすごく忠実に作りながら、香港版オリジナル設定を投入、よりキャラクターの背景やストーリーをしっかり描き、香港の文化も学べる作品。香港版の方がよりハートフルコメディ感が強く、本家とはまた違う面白さに出合えます。
今回ご紹介した作品
「大叔的愛」(香港版「おっさんずラブ」)
- 配信
- TELASA、U-NEXTほかで配信中
情報は2024年1月時点のものです。