地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ナビレラ -それでも蝶は舞う-
2024/5/10配信
バレエへの夢と挑戦を通じて70歳と23歳の交流を描く
Netflixシリーズ「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」独占配信中
韓国ドラマ界は命がけのサバイバルを描く『イカゲーム』、富裕層の壮絶な受験戦争がテーマの『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』など派手で衝撃的な作品の大ヒットが目立ちますが、その一方でじんわり心を温めてくれるような秀作の宝庫でもあります。『ナビレラ』はまさに後者の代表作なのです。
老いも若きも何かしら「人生で諦めたこと」があり、過去への後悔の念が少なからずあるのではないでしょうか。タイトルの「ナビレラ」は韓国語で「蝶のように羽ばたく」という意味。「夢に向かって美しく羽ばたけ」という意味が込められています。
でも、最初に「憧れのバレエに取り組む70歳のおじいちゃんとスランプに陥ったプロのダンサーを目指す23歳男子の交流の物語」と知ったときは、おじいちゃんのレオタード姿はイタいとしか思えず、かなりムリめな設定だと思いました。ところが、回を重ねるごとに懸命に嬉しそうにレッスンする姿にエールを送らずにはいられませんでした。
郵便局員として妻と3人の子供のため必死で働き、定年まで勤めあげたシム・ドクチュル(パク・イナン)。70歳になり友人の訃報など悲しい知らせが増えてきたとき、彼は「人生でやり残したこと」を痛感して、子供の頃から憧れだったバレエを始めようと決意します。
Netflixシリーズ「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」独占配信中
なぜバレエを習いたいのか問われたドクチュルは「今まで一度も好きなことをしたことがないんです。生計を立てることに精いっぱいで。夢を持つことすらできなかった。それが当然でした」と語るのですが、同じ思いをしている同世代の方には深く刺さる台詞のはず。
かたや、子供の頃から高校までサッカーに打ち込んできたイ・チェロク(ソン・ガン)は、監督だった父親がチームメンバーに体罰を与えたためクラブは廃止。挫折にもがいて19歳からバレエという新しい道を歩きだして4年ですが伸び悩み中。スタートが遅いぶん焦りを感じる日々。
Netflixシリーズ「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」独占配信中
そんなときチェロクはドクチュルの指導を任され、はじめは嫌々教えるのですが、次第にドクチョルのバレエへの熱意、人生経験豊富な賢明さや優しさに触れ、自らの葛藤や苦悩を克服し成長していくのです。
そしてチェロクは大企業のインターンから正社員になれなくて落ち込むウノ(ドクチュルの孫女)に問います。「君は何をしている時がいちばん幸せ!それを見つけられるのは君だけだから」と。それからウノは変わり、自分の道を探しだします。
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しかし、ドクチュルの妻や息子は世間体を気にしてバレエに大反対。実は家族にも明かしていない「秘密」があり、それゆえにバレエに打ち込むとわかったときは、涙腺が緩まずにいられない。
ドクチュルにとってバレエは「趣味」ではなく「挑戦」なのです。
ドクチュルを演じるのは芸歴50年以上で「国民の父」とも呼ばれるパク・イナン。さすがベテランだけにバレエを練習するときの生き生きした表情、家族の反対に心折れながら諦めきれない心情を繊細に演じました。
チェロクを演じるソン・ガンは、長身に甘いマスクでドラマに引っ張りだこですが、本作では半年間、バレエのレッスンに励み、プロによるダンスシーンの吹き替えはあるものの、多くの場面を自ら演じ、バレエダンサーとして説得力のある役作りの成果を見せました。
「夢を叶えて好きな仕事につき、その報酬で生活できる」恵まれた人はごくわずか。ほとんどの人はお金や時間の余裕がなく、やりたいことを諦めた経験があるはず。
Netflixシリーズ「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」独占配信中
けれど、「何歳になっても挑戦を諦めない大切さ」と、「何をしているときがいちばん幸せなのかを問い続ける」ことが、人生の質を高めることに繋がるということを、本作は切に感じさせる至極のストーリーなのです。
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「ナビレラ -それでも蝶は舞う-」
Netflixにて独占配信中
情報は2024年5月時点のものです。