村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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三体

2024/6/20公開

『ゲーム・オブ・スローンズ』制作陣が挑む! SF超大作

Netflixシリーズ『三体』独占配信中

 ここ最近、ベストセラー小説のドラマ化でここまで世界中から注目と期待を集めた作品はないと断言できるのが中国のSF小説『三体』です。

 作者の劉慈欣(リウ・ツーシン)は発電所のエンジニアから小説家として成功し、2015年にアジア人作家で初めて第73回ヒューゴー賞の長編小説部門を受賞。バラク・オバマ元大統領やFacebook(現・Meta)のCEO、マーク・ザッカーバーグも本作の大ファンであることを公言するお墨付き作です。

 その物語は中国の文化大革命から始まる過去パートと研究者や科学者が超自然的な怪異に見舞われる現代パートが並行して進み、三体人というエイリアンから人類と地球をどう守るかの攻防戦へと展開。全3部作の大長編でとにかく壮大すぎる世界観ゆえ、ドラマ化はかなりハードルが高いのではと思われました。

 でも、あの世界的な人気ファンタジードラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の制作総指揮を務めたデイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスが制作を担当、Netflix 史上最高額のプロジェクトと知って期待は高まるばかりでした。

Netflixシリーズ『三体』独占配信中

 結論から言うと、まさかここまで大胆に物語の舞台、登場人物を再構成するとは驚き! 現代パートの舞台を中国からイギリスに移し、主要キャラクターをオックスフォードで学んだ同級生5人(通称‟オックスフォード・ファイブ”)に置き換えて群像劇も加え、原作の柱となる要素は残しつつ、全8話で原作の『三体Ⅱ』まで踏み込んだ内容になっています。その展開はダイナミックでジェットコースター並みに早く、登場人物に一体感と人間ドラマが生まれることで没入度の高いエンタメ作に仕上がっているのです。

 Netflix 版より先に制作された中国版は全30話でストーリーに忠実に描きますが、物語の発端でもある文化大革命に関わる部分をセーブするなど、中国側の思惑が見えます。

 しかし、本作では冒頭で、のちに物理学者となるイエ・ウェンジェの大学教授の父親が文化大革命で近衛兵から激しい弾圧を受け殺される姿、その後の思想教育の名のもと辺境の観測基地に追い遣られる壮絶な人生の回顧を忖度なしに描きます。

Netflixシリーズ『三体』独占配信中

 彼女の深い心的外傷、体制に対する恨み、絶望感によって、異星人を探すための中国の極秘観測基地からメッセージを密かに送信し、新天地を求めていた異星の三体人を呼び寄せてしまうのです。

 時を経て2024年のイギリスでは、相次ぐ科学者の不審死が発生。そんなときナノマテリアルの研究と開発を行うオギーの眼前に‟謎のカウントダウン”が現れたり、ありえない天体現象が起こります。オギーを含む‟オックスフォード・ファイブ”が、型破りな捜査官と手を組み謎を解明しようとするのですが――。

 1960年代の中国でウェンジエの下した決断によって人類は三体人との戦いへと突入して行くのです。

 とにかく中国の文化大革命から現代の宇宙戦争までを一気に見せる構成と、不可思議な現象にリアルな説得力を持たせる映像が素晴らしい。とりわけ事態を打破するための鍵を握る存在として登場するVRゲーム内の中国の王朝や英国のチューダー朝の‟仮想世界”が衝撃的で驚異の臨場感をひしひし感じさせます。

Netflixシリーズ『三体』独占配信中

 さすが、『ゲーム・オブ・スローンズ』では、ドラゴンと異形の者が共生するファンタジーの世界を描き出した制作チーム。本作ではVFXを駆使し、バーチャル世界や宇宙も描き、原作者が創造した壮大なヴィジュアルを実写化しているのです。

 三体人を脅威に感じる者もいれば、彼らを「主」と崇める人間もいる。そんな人間との音声のやりとりで、彼らには「嘘」という概念がないことがわかります。三体人のコミュニケーションは全てが真実で、陰謀や偽装が存在しえない社会。だから三体人は、嘘や捏造を使って交渉することのできる地球人に恐怖を覚えることになるという設定も人類へのパンチの効いた皮肉になっています。

 また、唯一のロマンス要素となる物理学の教師ウィルから天才物理学者ジンへの最後の告白からの人類の命運をかけた地球防衛計画に関わる、いまだかつてない辛すぎる別れも壮絶。

Netflixシリーズ『三体』独占配信中

 文化大革命で紅衛兵たちが「虫ケラを排除せよ!」と大学教授たちを罵倒するコールと、ラスト、三体人から「虫ケラ」扱いされる人類が「虫」の生命力に希望を見出すところに深い意味を感じずにはいられません。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ『三体』

Netflixにて独占配信中

情報は2024年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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