地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ザ・ビリーバーズ
2024/9/2公開
仏教国タイ社会を揺るがす宗教ビジネスの裏側を描く
Netflixシリーズ「ザ・ビリーバーズ」独占配信中
見終わった後の率直な感想は「仏教国のタイで仏教ビジネスのドラマを作っていいのか?」でした。
どん底の失業者の男ふたりが、金儲け目当てで新興宗教を作るNHKドラマ『仮想儀礼』(原作・篠田節子)を興味深く観ていましたが、国民の90%以上が仏教徒だといわれるタイで、仏教ビジネスの裏側に切り込んだ『ザ・ビリーバーズ』は攻めすぎでは? と。
しかし、注目度は抜群でNetflixで今年の3月27日配信開始直後に1位を獲得。タイ社会で賛否両論を巻き起こした話題作となりました。
ゲームと仮想通貨を絡めたスタートアップ企業の若き経営者3人。企画力に優れたウィン、資産家の息子であるゲーム、女性デザイナーのディアは、大成功目前で仲間に嵌められて、多額の借金を背負うことになってしまう。彼らが借金返済のために目をつけたのが寺院経営でした。
借金を返済するために悪の道に手を染める設定はありがちですが、まさかの寺院ビジネスに乗り出すのが意表を突いています。
信仰心に厚い母親が寺に寄付するのをみてウィンはひらめきます。「タイには寺院が数万ある。1%でも市場を取ればもうけられる。仏教ビジネスで短期利益1000%を目指す」と、目標を掲げる3人。
Netflixシリーズ「ザ・ビリーバーズ」独占配信中
リサーチの末、田舎にある寂れたプマラム寺院をターゲットに、管理人タンを抱き込み、自分たちの手で寺院を有名にして参拝客を呼び込む戦略を着々と進めていくのです。
表向きは「仏教の教えをより広い層に届けたい」「若者が法(ダルマ)に触れられるようにしたい」「仏教を広めるための運動は善行」と大義名分を掲げて、住職の信頼も得ます。
ITの企業のノウハウを駆使して、寄付はモバイル決済できるシステムを構築、3つのSNSで寺院をピーアール、さらに寺院で蚤の市やのど自慢大会まで開催。
カリスマ性のあるイケメンのドル僧侶をスカウトして法話の動画を発信、寺院には大口の寄付も集まり参拝客は急増。
ドル僧侶役は、どことなく雰囲気がトニー・レオン似の人気バンドPotatoのシンガーPup。
「愛は幸せをもたらす。だが幸せには苦しみがつきものだ。愛すると決めたら苦しむ覚悟も必要だ」と、美声で解くシーンが心に沁みます。実はドル僧侶こそ、この台詞のような想いを抱えるいちばん切ないキャラクターなのです。
Netflixシリーズ「ザ・ビリーバーズ」独占配信中
信仰心をまんまとビジネスに繋げて、借金を返済するのですが、それまで人気だった近隣の寺院と支援金をめぐり対立。また、寺院で麻薬取引きが行われていたことが明るみになり、警察に目をつけられる……と次々とトラブルに見舞われます。
最後の切り札として出したお守りを売るための無謀な行動が、結果的に起死回生となるのですが、それがまた負のスパイラルになり、新たな罠に嵌められるところでドラマはジ・エンド。中盤から巻き起こるミステリーサスペンスで手に汗握りっぱなしの展開で、すでに続編の制作が決定しています。
動機は不純ながら、若者3人が真面目に寺院再生に取り組んでいるため、宗派、祝日などタイの仏教信仰や寺院について知れる一面もあり、学びのある作品でもあります。
信者に対して道徳的訓戒や人生の指針を提供する宗教と、利益を追求するビジネスは真逆であるはずが、信仰心を利用して大金を献金させようとする宗教団体があるのも事実。本作で宗教ビジネスの裏側をしっかり見せられ「お守り」を買う気持が薄れました。
また、信仰心がマイナスに働くことがあるというのも考えさせられたこと。多くの人が仏教徒のタイでは、「精神科医に通わず仏教に救済を求めるのはおかしい」という劇中のセリフそのままに、治療を受けずに鬱など問題を抱える人が多いといいます。
Netflixシリーズ「ザ・ビリーバーズ」独占配信中
それにしても、ここまで攻めた仏教ビジネスのドラマが話題になるということは、少なからずタイの人たちの信仰に対する考え方が変わりつつあるのかもしれません。
今回ご紹介した作品
Netflixシリーズ「ザ・ビリーバーズ」
- 配信
- Netflixにて独占配信中
情報は2024年9月時点のものです。