村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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家族の名において

2024/10/18公開

中国で50億回再生の記録を作った大ヒットホームドラマ

©2020 China Huace Film & TV Co., Ltd.

 中国ドラマ『家族の名において』が韓国で『組み立て式家族〜僕らの恋の在処〜』のタイトルでリメイクされ10月から放送が開始されたこともあって、再び注目が集まっています。

 韓国、さすが良き独創的な作品に目を付けました。本作は、2020年に中国で放送&配信開始されゴールデンタイムドラマで、視聴率1位&1ヵ月の再生回数50億回超を記録した異色のホームドラマ。血の繋がりのない3人が兄妹として育ち、一緒に支えながら成長していくストーリーです。

 1話と2話で兄妹になるきっかけが描かれるのですが、その悲喜交々の設定に引き込まれずにはいられない。悲しみ、しみじみした思い、笑いを交え、この2話を観ただけでも秀作の片鱗を感じさせます。

 幼い頃に母を亡くした李尖尖(リー・ジェンジェン)、それぞれ母親が不在の凌霄(リン・シャオ)と賀子秋(ハー・ズーチウ)。李尖尖の父である李海潮(リー・ハイチャオ)は凌霄と賀子秋を家へ招き入れ、凌霄の父・凌和平(リン・ハーピン)も加わり、3兄妹に父親ふたりの5人家族が誕生します。

 男手ひとつで麺の店を営み、娘を育ててきた海潮パパがもう「仏様」のような人物。同じ団地の2階に引越してきた凌霄の一家。凌霄の母親はかつて息子のある行いで幼い娘を亡くしたことに苦悩し自暴自棄になり家を出ます。そんな父子を見かねて食事を提供するうち身内のような関係になっていきます。海潮パパは女手ひとつで息子の子秋を育てる賀梅(ハー・メイ)とお見合いの後、「母が重病で倒れたから息子を預かってほしい」と頼まれ快く引き受けますが賀海は戻って来ず、結局、子秋と一緒に暮らすのです。

 シングルファーザーで店を切り盛りしてひとり娘を育てるだけでもひと苦労なのに、海潮パパは子供達を愛情深く育て、それに応えるように凌霄は長男、子秋は次男として2歳下の妹の尖尖を可愛がり、家族のような絆で結ばれていきます。

 海潮パパは、朝3時半から店の仕込みをして、朝7時に家に戻り家族の食事を作る。忙しくても食事に手を抜いた事は無いという出来すぎた父親。ちなみに料理のシーンがよく出てくるのですが、どれも美味しそうで本作を観た後はもれなく中華が食べたくなります。

「互いに支え合えば家族。周りがどう思おうと」と子供たちに伝えてきた海潮パパが、ふたりの息子を自分の本当の子供だと思っているのに周りからは「血が繋がっていないからそう思われない」のが悲しくて男泣きする場面が切ない。親が血の繋がった子供を虐待する事件が世間を騒がせるなか、人格者ぶりに胸が熱くなります。

 ところが仲良く暮らしていた家族に突然、別れが訪れます。兄ふたりは高校卒業後、悩みつつも家を出ることに。凌霄は交通事故にあった母親の看護のためシンガポールへ。賀子秋は後継ぎを望む裕福な実の父親の元へ。

 序盤20話はホームドラマですが、兄妹の人生が子供時代から長いスパンで全40話で描かれているのが本作の醍醐味です。

 10年後、再び再会したところからラブストーリーに突入。凌霄は歯科医となり、子秋はカフェのオーナーで尖尖は彫刻家に。大人になった3人は子供の頃のように無邪気ではいられず、兄たちは尖尖への恋心を自覚していきます。その微妙に変化する心情を時に切なく時にコミカルに描き、凌霄と尖尖が兄妹から恋人になっていくプロセスも見どころのひとつ。

©2020 China Huace Film & TV Co., Ltd.

 しかし、同時に凌霄と子秋は実の親に振り回され葛藤することに。凌霄の母は息子に世話をしてもらうのが当然で、自分の過去を知る尖尖との交際に大反対。子秋の実父は息子に徹底したギブ・アンド・テイクを求め、海潮パパがただ与えてくれたのとは大違い。最後に子秋は実夫を「生物学上の父親」と呼び、関係を断ちます。

 本作は家族とは? 血縁関係とは? を考えずにはいられなくなる作品です。そして家族のありかたに「正解」はない、自ら見つけていくものだと教えられた気がします。

 さて、韓国版ではこの深いテーマの40話をどう16話にリメイクするのか。中国版ではイケメンのソン・ウェイロンが演じた長男を、ドラマ『女神降臨』で不良のソジュン役だったファン・イニョプがどう演じるか。この記事が出るころにはそろそろ評価が見えているはずです。

今回ご紹介した作品

家族の名において

配信
U-NEXTにて配信中

情報は2024年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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