村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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悪の心を読む者たち

2025/1/14公開

プロファイラーが凶悪事件を暴く

©SBS

 やっぱり新年早々にご紹介するのは明るくハッピーになれる作品にしたいと考えていたのですが、「水と安全はタダ」といわれていた日本で、昨年は証券マンの現金強奪後の放火や闇バイト強盗による殺人など信じられない衝撃的な事件が相次いだこともあり、今こそ本作を推したいと思い至りました。

 タイトルの「悪の心を読む者たち」とはプロファイラーのこと。同名の原作は韓国初のプロファイラーであるクォン・イルヨンが実在の事件をベースに執筆したルポルタージュです。

 舞台は1990年代後半。凶悪な連続殺人事件の捜査に絡めてプロファイラー誕生の経緯を描きます。

 有能な検視官だったクク・ヨンス(チン・ソンギュ)はプロファイルの重要性を痛感して、犯罪行動分析チームの創設に尽力。知性と冷静さ、感受性の強さを併せ持つ刑事ソン・ハヨン(キム・ナムギル)をメンバーに指名するのです。

 始めはプロファイラーに向いていないと拒んでいたハヨンですが、持ち前の生真面目さと粘り強さでアメリカの文献や報告書などを読み込み、犯行現場にも何度も足を運び、犯人の気持ちになるためにナイフを持って実演。住民から不審がられたりしながらも、犯人の正体に迫ります。

©SBS

 赤いキャップを被り女性を襲う連続殺人、富裕層を自宅で惨殺する犯人、バス停で最終バスを待つ女性を自分の車に誘い込む殺人鬼。

 ハヨンはそんな凶悪犯と面談し罪を認めさせ、いまだ発見されない遺体を見つけるために、生い立ちから動機、殺人を犯すときの気持などを掘り起こしていくのです。

 ハヨンを演じるのは影のある役柄が似合うキム・ナムギル。無口で感情を抑えがちですが、正義を貫く強い意志を持つ役柄がまさにハマり役。

 犯罪者の狂気に満ちた証言を聞くうち、被害者とその家族を思い、しだいに疲弊するハヨンを立ち直らせたのが、被害者の家族だったのが胸にじんわりきます。

 犯人には過去に虐待を受けたなど犯罪の火種はあるものの、殺人を得意げに話す殺人者、嬉々として女性を殺める瞬間を話す犯人がリアルで、おぞましずぎる。世の中には罪の意識が全くない犯罪者がいることを思い知らせてくれ、こちらの精神までおかしくなりそうです。

©SBS

 とりわけゾゾーッとしたのはサイコパス殺人鬼。親切な好青年にしか見えないのに、女性を車に誘い込むために入念に準備し犯行を重ねます。

 もう、信じられない事件に胸が締めつけられるのですが、これがフィクションではなく現実に起こった事件なのが、さらに衝撃的で驚愕です。

 日本人のほとんどは道に人が倒れていたら、「どうしました?」と駆け寄るはず。しかし、最近、それは仮病で突き飛ばされてバッグを奪われる事件も増えているそう。悲しいことですが、物騒になった世の中、人を信じすぎず自衛しかありません。

 密度の濃い本作を観たあとは、ハヨンのバディともいえるヨンスを好演したチン・ソンギュ主演の映画『エクストリーム・ジョブ』(19)で初笑いがお薦め。麻薬組織捜査のため、フライドチキン店の従業員を装うという前代未聞の戦略を取る麻薬捜査官チーム。あろうことかソンギュ演じる刑事の作るチキンが絶品すぎて、困ったことに大繁盛! 捜査の行方はいかに⁈ と、もう、設定から笑わせる特上のクライム・コメディです。

 ちなみにソンギュはその個性的な鼻について「名前が知られる前に整形しておけばよかった」と自虐していますが、いまやトレードマークとなっています。

©SBS

今回ご紹介した作品

悪の心を読む者たち

配信
U-NEXTにて配信中

情報は2025年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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