村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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ヒーラマンディ: ダイヤの微笑み

2025/2/25公開

英領インドの高級娼館で繰り広げられる女性たちの戦い

Netflixシリーズ「ヒーラマンディ: ダイヤの微笑み」独占配信中

 昨年から今年にかけて日本でもインドでも色街を舞台にした作品が話題を集めています。

 今年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、江戸時代、写楽や歌麿を世に送り出した蔦屋重三郎の波乱万丈の人生を描きます。舞台は吉原遊郭。第一話では亡くなった女郎が衣類を剥ぎ取られ投げ込み寺で捨て置かれる場面が物議を醸し出しましたが、当時の社会風俗をしっかりストーリーに織り込む「攻めた」作品ともいえます。

 一方、インドの 「ヒーラマンディ: ダイヤの微笑み」は絢爛豪華な高級娼館で歌と踊りに秀でた「歌姫」と呼ばれる別格の娼婦たちの生き様と同時に英国統治からの独立運動を描きます。娼館の裏側や女たちのドロドロの闘いを縦軸に、独立運動を横軸にドラマティックなストーリーを構築。インド映画界のヒットメーカーであるサンジャイ・リーラー・バンサーリー監督が手掛けた初のNetflix シリーズです。

 舞台はラホール(現在はパキスタン)にある高級娼館「ヒーラマンディ」。

 ここで女王のように君臨するマダム、マニカジャーンは圧倒的な権力を持ち、「気安く笑うのは妻の役目、歌姫の笑顔は金では買えない」「パンを渡すとき手が触れれば相手の欲望も体も刺激できる」「妻が現実、恋人は願望、歌姫は欲望」と経験に裏打ちされた自論で歌姫を教育します。

 彼女の長女ビッボも「歌姫」として活躍し、末娘アラムも美貌と歌唱力に優れ将来を期待され、我が世の春を謳歌していたときに、姉の娘ファリーダンが現れます。母親を殺し「ヒーラマンディ」の女王の座を奪ったマニカジャーンに復讐を誓うファリーダンと激しい支配権争いを繰り広げるのです。

Netflixシリーズ「ヒーラマンディ: ダイヤの微笑み」独占配信中

 とにかく独自の審美眼を持つ監督による映像美に圧倒されます。御殿のような娼館は家具の隅々まで美しく、衣装やアクセサリーは煌びやかでため息もの。とりわけいくつもの噴水が「歌姫」の歌とダンスを盛り上げるステージは、幻想的で官能を直撃。

 海外ドラマを観る醍醐味は日常を忘れて他国の未知の世界を知るところにありますが、本作はまさにその最たる作品といえます。

 しかし、華やかなステージ裏で繰り広げられる女同士の闘いは苛烈で、マダムは妹にも容赦なく、使用人にも冷酷。アラムのお付きのサイマは歌がうますぎて男に売られるハメに。「貧乏人にとって美貌も才能も敵」という台詞が胸に痛い。

 前半は「黄金の鳥籠の中の鳥」と自分たちを例える「歌姫」たちの悲哀や葛藤が主流です。詩が大好きで詩人に憧れるアラムですが、母親は「歌姫」になることは運命だと強要。愛していた藩王の結婚式で歌い踊ったのち死んだラッジョの葬儀では、死んで初めて自由になる境遇を訴え「自由」を求める歌が娼館に響きます。

 後半はインドの独立運動がストーリーに深く関わり、予想外の方向へ展開。ビッボは秘密裏に独立運動に協力し、アラムは「歌姫」より一人の男の愛を選ぶのですが、やがてその決断が女性たちの連帯へと繋がっていくラストは全くの想定外ながら感動的です。ゴージャスな高級娼館という器の中にフェミニズムのメッセージを込めたところが秀逸。

Netflixシリーズ「ヒーラマンディ: ダイヤの微笑み」独占配信中

 すでにシーズン2の配信も決定。1947年、英国の支配から独立した後の「歌姫」たちの物語のようですが、どんな風に描かれるのか続編が待ち遠しいです。

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「ヒーラマンディ: ダイヤの微笑み」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2025年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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