村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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茶金 ゴールドリーフ

2025/6/20公開

台湾茶がゴールドと同等の価値があった「茶金時代」

 台湾旅行に行ったとき、さほど中国茶に思い入れはなかったのですが、有名なお茶屋さんで高価な凍頂烏龍茶を買いました。普通の烏龍茶との違いもあまりわからないまま飲んだのですが、本作を観てもったいないことをしたと激しく後悔でした。

『茶金 ゴールドリーフ』は中国茶の奥深さをとことん見せる作品です。良い茶を作るには、いかに「茶師」の腕が重要か。茶葉を何度も焙煎して試飲は10煎。味や香りがどう変化するかで一喜一憂するシーンが何度も出てきます。

 舞台は第二次世界大戦後、日本人が台湾を去り、中国大陸から国民党の軍隊がやってきて、1949年中華人民共和国が建国された時代。戒厳令下の台湾では、貨幣価値が暴落する一方、台湾茶は値千金とされるほど高騰していました。

「茶金時代」とも言われた当時、製茶業で大成功し「茶虎」と呼ばれた実在の人物の家族をモデルにしたのが本作です。

 婿養子ながら事業を拡大したチャン・フージー(張福吉)ですが、妻は他界し残された娘チャン・イーシン(張薏心)とふたり家族です。

 フージーは男尊女卑の時代に娘を留学させ、その商才を認めて新社長にしたり、若き才能のある女性ルオ・シャンメイ(羅山妹)を茶師に抜擢するなど革新的な反面、義理と人情とプライドを優先して損失を被りがち。

 そんな父親を反面教師に、イーシンは会社を立て直し従業員への給料と利益を確保しようと奮闘します。女性は親の決めた相手と結婚して子供を産むのが当たり前の時代に、自ら結婚を拒否し、お嬢様育ちからヤリ手のビジネスウーマンに成長していく体当たりの実行力に胸のすく思いがします。

 作中の台詞によると「世界の市場は80%が紅茶、緑茶が15%、2%未満が烏龍茶」だそうで、なんとしても自社の中国茶を世界的なブランドにしたいと奮闘するイーシン。

 女性茶師シャンメイは日本の天皇陛下に献上したものと、同じ茶を作ろうと苦心するのですが、最高の茶は結局、天候で決まるゆえ、「天の時、地の利、人の和で完成する」というフージーの台詞に一筋縄ではいかない厳しさが見て取れます。

 イーシンが心を寄せるアメリカ企業勤務のリウ・クンカイ(劉坤凱)も、台湾大空襲で家族を失い、深い哀しみを抱えながらも茶畑で働く農民を助けるために農薬の普及に尽力します。

 しかし、地道な努力やそこまでの苦労が戒厳令化の台湾では、政府の政策変更や通貨切り替えで水の泡に…。一家とクンカイにおそいかかる運命は容赦がない。そんな理不尽さのなかで、イーシンたちが最後の最後まで立ち向かう姿が胸アツです。

 イーシンたちが話す客家(はっか)語、日本の植民地時代の日本語、台湾出身者の「内省人」が話す台湾語、中国から入ってきた「外省人」が話す北京語や上海語、英語が入り乱れる台詞に複雑な時代背景と時の政府に翻弄される人々の大変さを痛感せずにはいられません。

 加えて、ラスト1話に追加されたドラマのモデルになった人たちのドキュメンタリーが良き。激動の人生を自ら語っており、よりストーリーをリアルに感じることができるのです。

今回ご紹介した作品

茶金 ゴールドリーフ

配信
Amazon PrimeVideoエンタメ・アジアにて配信中

情報は2025年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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