村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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アナログファミリー

2025/7/14公開

3日間限定の偽装家族の予定が思わぬ展開に…

Netflixシリーズ「アナログファミリー」独占配信中

 血の繋がりのない者たちが疑似ファミリーとなる物語といえば、カンヌ映画祭で賞をとった是枝裕和監督の『万引き家族』(2018)を思い浮かべる人が多いはず。東京の下町に住む一家5人は、生活費を補うために親子で万引きなどを繰り返す闇が深い家族でしたが、『アナログファミリー』は善意の嘘のために集まった疑似家族の背景と葛藤のその先を描く作品です。

 舞台はミレニアムの2000年まで約1ヶ月とカウントダウンに入った1999年のタイ。まだ携帯電話は普及しておらず「ポケベル」が連絡手段として重宝がられ、「たまごっち」が人気。そんな懐かしい時代が描かれます。

 ちなみにタイのポケベルは通信サービスセンターの社員が直接電話で伝言を聞いて、キーボードに打ち込み相手に伝えるシステムだったと本作で知って驚きました。担当の社員に秘密が筒抜け!で、ニセの家族のひとりはそれを利用してまんまと報酬の高いバイトを得るのです。

 ポンドは20年会っていない父親が危篤と知らされ最後に会いに行こうと決心します。しかし、仕事もうまくいかず、妻とも離婚、子供ともずっと会っていないことを両親に知られたくないため、報酬を支払い寄せ集めのニセの家族を作って故郷バンガーへ向かうのです。

Netflixシリーズ「アナログファミリー」独占配信中

 妻のマム役には元カノのリリー、娘のマグ役にはビデオレンタル店で働くブン、息子のモン役にはポケベル通信サービス勤務のケグを3日間雇って病院へ。ところが、あろうことか奇跡的に父親が回復し退院できるまでになり、偽装した家族は困惑しつつ嘘を重ねることになるのですが……。

 ストーリーが進むにつれ、しだいにポンドをはじめニセ家族全員が秘密を抱えていることが明かされます。ポンドと父親が絶縁した原因、リリーは乳癌を患っており、ブンは優しい実父の嘘に衝撃を受け、ケグは母親に内緒である行動に出ようとしています。

 その秘密には「善意の嘘」が絡んでいるのですが、ネタバレながらひとつあげるとケグの母親はかつて有名なヌードモデルでしたが、今はカオサンで宿泊施設を経営し息子を溺愛するシングルマザー。ケグも「ママ大好き!」で過去の仕事を理解しているように見せかけながら実は恥じており、息子依存の母から離れ、内緒でアメリカに移住する準備を進めています。

「自分の家族と本音で話すのがいちばん難しい」という台詞を痛感するシュチュエーションです。

 嘘がつけず息子と絶縁状態になったポンドの父親は写真館を営んでおり、人物写真を一眼レフのカメラで撮影し,自ら現像するアナログな作業をしています。デジタルカメラを勧める孫娘役ブンに、「フィルムの撮影で失敗したらやり直せばいい。人生も同じ」と含蓄のある言葉を語ります。

Netflixシリーズ「アナログファミリー」独占配信中

「アナログファミリー」のタイトルが気になって改めて調べてみたら「アナログ」とは“連続的”“流動的”な状態のことで曖昧なものをそのまま表現できるのに対して、デジタルの世界は「0」と「1」しか存在せず「マルかバツか」といったように中間部分を省いた状態で情報を表すそう。

 偽装家族は「善(白)」か「悪(黒)」か二択で判断すれば「悪」でしょう。でも、グレーゾーンも必要でそこでしか得られないかけがえのないものがあることを本作は教えてくれます。

 祖父母と交流するうち、ニセの家族はふたりを騙しているという罪悪感に思い悩み、ブンは真実を伝えようとするのですが、状況が急展しご近所にまで自分たちの存在を知られてしまうことに……。3日間限定のはずが嘘をつき続けるしかなくなり、やがて本当の家族ではないものの強い心のつながりが育まれ「一緒にいて幸せだったことが大事」という祖父の言葉にジーンときます。

 善意の嘘は罪なのか? 家族の血の繋がりとは? の深いテーマをコミカルな要素も加え、クスッと笑いながら考えさせられる良作。バイオレンスや復讐劇など刺激的なドラマに疲れたらぜひ観てほしい作品です。

Netflixシリーズ「アナログファミリー」独占配信中

今回ご紹介した作品

Netflixシリーズ「アナログファミリー」

配信
Netflixにて独占配信中

情報は2025年7月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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