村上淳子さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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零日攻擊 ZERO DAY ATTACK

2025/10/27公開

台湾有事という重いテーマを正面から描く

ZERODAY CULTURAL AND CREATIVE

 これまで台湾では台湾有事を描いた映画やドラマはありませんでした。それは非常にセンシティブでタブーなテーマだからです。

 一貫して台湾は自国の一部であると主張する中国と独立していると主張する台湾。

 このところ中国軍が台湾周辺海域で大規模な軍事演習を繰り返し、台湾に揺さぶりをかけており、さらなる緊張関係が続いています。それだけに本作は重苦しいテーマに正面から挑み、台湾有事に警鐘を鳴らす作品といえます。

 2億3000万台湾ドル(約11億円)という莫大な製作費の約半分は政府や大企業から投資が集まったのは、まさに台湾の矜持に違いありません。

 しかし、キャスティングは難航し、多くのスタッフがエンドクレジットでは本名を伏せることを選んだそう。今後の中国市場での仕事が制限されることや、中国にいる親族に危険が及ぶ可能性を考慮してのことです。日本からは高橋一生と水川あさみが出演していますが、中国に目をつけられることも恐れずよく出演を決めたと思います。

ZERODAY CULTURAL AND CREATIVE

 全10話ですが、各話のストーリーは基本的に独立しており、中国の武力侵攻や浸透工作が、政治や経済、メディアや家族などにもたらす影響が、それぞれのエピソードで描かれています。

 とりわけ第1話「戦争か平和か」は、かなり緊迫した内容で、新しい総統となる女性ミンファンが主人公です。

 選挙後の政権交代の5カ月にわたる空白期間に、中国軍の偵察機が東部の太平洋に墜落。中国側は救助の名目で海軍と空軍を大規模に派遣して台湾海域を包囲し、この時から中国軍が上陸する「ゼロ・デイ」へのカウントダウンが始まる……。

「流血なき平和」を公約にしたミンファン、その肩腕である女性警官ジュリアン、このふたりの固い絆と強い意志を断ち切らせるために非常な手段が仕掛けられます。

 夫と大学生の息子を持つ、次期、総統となるミンファンが同じ党派の老齢男性から小娘扱いされながらも自らの信念を貫くところに胸が熱くなります。

ZERODAY CULTURAL AND CREATIVE

 第3話『放送中』では、台湾全土で大規模な通信障害が発生し、メールが一切使えない状況に。中国と共同事業をしてきた台湾テクノロジー企業の幹部で日本と台湾のハーフである藤原偉(高橋一生)は、中国に関する重要な情報を伝えるため、かつて恋人だった報道キャスターに独占取材を打診するのですが……。

 現在の戦争は武力だけではないことを痛感。メールが使えなくなったテレビ局のスタッフがアタフタしながら電話番号やFAX番号を探して関係者に連絡するシーンは身につまされました。

 妊娠中の恋人との結婚生活を夢見て、戦争反対デモを武装で混乱させる闇組織に入り大金を稼ぐ若い男子、中国人の妻とハーフの娘を持つ紙銭店(葬儀のときに故人の冥福を祈り紙銭を燃やす風習がある)の店主ほか、危機に際して台湾の人々がどういう選択をするのかが見どころのひとつです。

 本作は台湾が直面している問題に正面から切り込みながら、社会派のシリアス一辺倒ではなく、高いエンタメ性とクオリティを両立している見応えのある作品です。

 この脅威は決して日本にとっては他人事ではありません。危機に際してどういう選択するべきなのか?を考えさせられる作品なのです。

ZERODAY CULTURAL AND CREATIVE

今回ご紹介した作品

零日攻擊 ZERO DAY ATTACK

配信
Prime Videoにて独占配信中

情報は2025年10月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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