村上淳子さんのドラマ批評 - 逐玉:翡翠の君

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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逐玉:翡翠の君

2026/6/15公開

アジア各国でランキング1位の中国時代劇

 まさに破竹の勢いで中国のみならず視聴者を増やし続けているラブ史劇がウェブ小説をドラマ化した『逐玉:翡翠の君』です。今年3月からの配信開始にも関わらず中国で累計再生回数26億4000回、日本のNetflixランキングで中国ドラマ初の1位を飾り、台湾、タイでも1位に。ドラマ王国の韓国でもNetflixランキング2位と、ここ2年低迷気味だった中国ドラマ界の吉報となりました。

 中国の時代劇は長編が多いせいか5話ぐらいまではいまいち盛り上がりに欠ける作品が多いのですが、本作は全40話ながらもう1話目から面白くて前のめりで完走できる作品なのです。

 舞台は中国ですが架空の場所、時代設定。ストーリーは小さな村から始まり、朝廷の権力争いまでをダイナミックに描写。とにかくストーリーの緩急が巧みで、主役はもちろん脇役のキャラクターまで魅力的に描かれスポットが当たっているのです。

 多少ネタバレしつつその面白さを解説すると、まずヒロインの樊長玉(ファン・チャンユー)が豚の屠殺の仕事をしているという設定に驚き! いまだかつてない意外すぎる設定なのですが、これが後半、女将軍となる展開に必要不可欠だったとわかり納得でした。

 一見、普通の女子である長玉が豚を一撃で気絶させる凄腕となった理由は、両親を山賊に殺され病弱な幼い妹とふたり暮らしをするため、父親の肉屋を継いだから。

 そんな一家を支える彼女は、雪の中に埋もれていた瀕死の青年を助けます。顔も身体にも傷を負ってるもののその端正な美青年は言正(イェン・ジェン)と名乗ります。

 戦場で負傷した命を救ってもらった恩返しに言正は自宅を失う窮地に陥っていた長玉を助けるため偽装結婚で入婿に。長玉はまだ杖が必要な言正に「豚を潰して私が養う」と宣言する情も器も度胸もある女子なのです。

 仕事は護衛と言いながら謎めいた言正はしかるべき高貴な生まれで本名は謝征(シエ・ジョン)。両親が他界し叔父に育てられた謝征は、戦場での武功を認められ侯爵として“武安(ウーアン)候”の称号を得ましたが、いつ死ぬかわからないという思いから一生独身でいるつもりだったため、「時期が来たら出て行く」と告げるのですが……。

 主役カップルのラブラインは偽装結婚からの純愛、身分を偽ったことによる葛藤、切ない気持のすれ違いからの甘々展開の韓国ドラマ的な王道ですが、軍師と皇帝の姉の微笑ましいロマンス、酒楼の女主人に対する狂気のストーカー殿下など脇役カップルの恋愛も見どころのひとつ。

 長玉の両親の秘密や謝征が追う過去の陰謀が母親の自死や17年前の東宮の火事、王宮のクーデターに繋がるなどさまざまな伏線が張り巡らされ、ぐいぐい引き込まれずにはいられない。

 戦の場面は激烈ながら、平時の場面では祭や新年行事などを市井の人々の暮らしを描き、所々に笑いがある脚本が秀逸です。

 加えて、特筆すべきはその統一された美学。映像がとにかく美しい。カメラワーク、照明、美術、衣装、メイクに徹底的なこだわりが見て取れます。とりわけ印象深いのは雪のシーンで主役カップルの心情が白銀の世界で際立ちます。

 主演のジャン・リンホーが美しい細工を施した鎧に長い羽を立てた冠で馬にまたがる姿は絵画にしたい麗しさ。ちなみにこの羽が目立ちすぎだとか、戦闘シーンでメイクをしすぎだとかで“ファンデーション将軍”と批判されましたが、それがまた話題になり視聴者を増やしました。

 これまで『雲之羽~揺らめく愛、刹那の二人~』『安寧如夢~宮廷にふたたび舞い降りる愛~』などで主演を務めてきたリンホーですが、本作の美男ぶりは群を抜き演技もさらに磨きがかかっています。重症のため弱々しい姿で憂いを含んだ表情から、伝説の武人に復帰した時の凛々しい姿、長玉への抑えきれない熱情をぶつけるシーンまで極上。

 長玉役ティエン・シーウェイも肉屋のときは素朴な可愛いさで、初の女の武将となったあとはきりりと美しく、戦場では豚潰しのワザが生きる剣捌きで、胸のすく活躍を見せるスーパーガールと変化するキャラクターを魅力的に好演。

 なんと言ってもこのふたりの演技の相性が抜群で、作品のクォリティーを格段に高めているのです。

 本作は、小さな村の肉屋から戦で敵を殺す葛藤を乗り越え女将軍となり、身分違いに悩みながらも謝征と結ばれた長玉のサクセスストーリーではありますが、ヒロインが守られるだけの存在ではなく、互いをリスペクトし愛する人を守る対等な関係であるところが清々しい。

 最終話の最後、鎧を着て参戦するふたりが互いの馬上で「無事に帰ろう」と言葉を交わす台詞がまさに! でした。

今回ご紹介した作品

逐玉:翡翠の君

配信
Netflixにて配信中

情報は2026年6月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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