影山貴彦さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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相棒season21

2022/12/26公開

今からでも間に合う!「相棒」

「相棒」(テレビ朝日系)の魅力は広く知られています。ただ同時に意外と多くのみなさんが、そのすごさを意識していないのではないかとも思うのです。

 熱心な「相棒」ファンの方々には、何をいまさらといったところでしょうが、その横顔を改めて少し紹介します。頭脳は極めて明晰ながら、かなりの変わり者でもある、水谷豊さん演じる警視庁特命係の杉下右京刑事が、相棒の刑事とともに鮮やかに難事件を解決するドラマです。基本1話完結スタイルの放送で、2002年10月から連続ドラマとしてスタートしました。以来、毎年欠かさず放送され続けており、現在なんとseason21を数えています。ちなみに連続ドラマになる以前には、2000年6月から11月にかけて、単発ドラマとして3回、「土曜ワイド劇場」で放送されていましたので、22年の歴史を刻む超長寿人気ドラマということになります。

 制作としてテレビ朝日とともにクレジットされているのは、東映です。その他の人気ドラマや、ヒーロー戦隊もの、あるいはアニメーションもそうですが、テレビ朝日と東映は資本的にも密な関係にもあり、同局では東映が制作に携わった番組が数多く放送されています。テレビ朝日制作のドラマは、他局に比べてシリーズ化される確率が高いのも特徴です。その代表格のひとつが「相棒」といえるでしょう。

 タイトルの「相棒」の話を忘れてはなりませんね。現在まで右京刑事の相棒を務めたのは4人。寺脇康文さん、及川光博さん、成宮寛貴さん、そしてまだ記憶に新しい反町隆史さんです。これまで最も長く水谷さんと相棒を組まれたのは反町さんですが、その記録がどうやら破られる時が近づいた?ようです。各ニュースにも大きく報じられましたが、寺脇康文さんが、およそ14年ぶりに相棒として、この秋から復活されました。テレビドラマの世界では極めて例をみない展開です。「相棒」ファンの多くは大喜びでした。もちろん私もそのひとりで、メディアにもお祝いコメントを寄せました。

 寺脇さんの役名は、亀山薫といいます。亀山刑事は、2008年放送のseason7の途中で警視庁を退職し、政治腐敗の著しいサルフィン(ドラマ上の架空の国)の子どもたちに正義を教えるために移住という設定でした。そこからドラマ上かなり大がかりな展開があったのですが、現在のseason21では「嘱託職員」として復職し、名コンビ復活が実現されているのです。相当なウルトラCと言えましょうが、そのあたりには片目をつむるのが、ドラマというエンターテインメントを愛する者のたしなみではないかと日頃から思っています。14年の空白を感じさせない人間味あふれる亀山と右京の絶妙の掛け合い、活躍が今シリーズの大いなる見どころのひとつです。

「相棒」は、テレビ朝日のプロデューサーである松本基弘さんと脚本家の輿水泰弘さんが話し合いを重ねることで生まれたようですが、私が気に入っているのは、しっかりしたフォーマット(設定)が確立された上で、数多くの脚本家や監督が「相棒」に関わっていることです。ドラマの成否は半分以上脚本の力にかかっていると考える者ですが、「相棒」の場合は、複数の作り手たちが切磋琢磨して「相棒」の看板を守りつつ、かつ色あせないストーリー展開を維持しているところが、大いなる魅力の理由のひとつではないかと思うのです。

 新しいものを生むことは番組制作において生命線です。ですが、素晴らしい老舗の暖簾を守っていくことは、より難しいことではないかと常々感じています。さきほど挙げた魅力の一因は、もちろん「相棒」に限ったことではありません。そこでクローズアップされるのが、やはり水谷豊さんの卓越した存在感でしょう。たとえどんなに色あせない脚本があったとしても、主役の鮮度が落ちてしまえば、たちまち視聴者は離れてしまうものです。水谷さんにはそれがまったくありません。

 12月7日放送の「2022FNS歌謡祭第1夜」(フジテレビ系)で、水谷さんは親友の木梨憲武さんと共にステージに登場、「カリフォルニア・コネクション」を披露しました。木梨さんに勧められる形で、系列を超えて「相棒」名物「紅茶注ぎ」をし、少し照れながら大ヒット曲を熱唱する姿に感動しました。「カリフォルニア・コネクション」は、水谷さんの刑事役の原点ともいえる「熱中時代・刑事編」(1979年・日本テレビ系)の主題歌なのです。「相棒」を長く支えるファンの心の内には、「熱中時代」他、彼の出演した数々の名作があるはずです。

 いかかでしょう?今まで「相棒」をご覧になったことがない方、一度見てみてください。きっとハマることをお約束致します。特にテレビを見る目が肥えている方には最適なドラマだと確信しています。

今回ご紹介した作品

相棒season21

放送
テレビ朝日系にて毎週水曜よる9時~放送中
配信
TVerにて最新話を1週間無料配信中
TELASAにて全話配信中

情報は2022年12月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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