影山貴彦さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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警視庁アウトサイダー

2023/01/13公開

「はぐれ刑事」藤田まことさんへのオマージュが粋

 西島秀俊さんと濱田岳さんの共演と聞いて、「これはスルーする選択肢はないぞ!」と見始めたのが、5日にスタートした「警視庁アウトサイダー」(テレビ朝日系)です。
 タイトルが表すとおり警察モノで、原作は加藤実秋さんの小説シリーズです。2021年の9月に第一作が刊行され、現在も続編が文庫本で書き下ろしされています。ちなみにドラマの制作協力でクレジットされているのはKADOKAWAで、小説の出版も同社です。古くからKADOKAWAお得意のパターンですね。

 とはいっても、若い読者の方はピンと来られないかもしれません。メディアミックスと呼ばれるスタイルを日本で最初に大成功に導いたのが、「角川書店」でした。「読んでから見るか、見てから読むか」は、1977年に公開された映画「人間の証明」で使われたキャッチコピーです。活字媒体はもちろん、テレビやラジオでも耳にしない日はないほど、このフレーズは印象的でした。映像作品と小説を連動させる手法は、これ以降広がりを見せていったのです。

 さて、ドラマの中身ですが、西島さん演じる架川英児は、あるトラブルが原因で桜町中央署刑事課に飛ばされた、辣腕の元「マル暴」です。マル暴の説明は不要かと思いますが、念のために記しておきますと、暴力団に関する事案を取り扱う警視庁の組織犯罪対策部や、各都道府県警察刑事部捜査第四課あるいは部課員の通称です。一方で濱田さん演じる蓮見光輔は、一見優しく人間味があり将来を嘱望されるエース刑事です。ただ彼のプロフィールは実は謎だらけで、暗い過去を背負っている感がドラマ初回からにじみ出てもいました。

 そんな2人ですから、いわゆる熱き絆で結ばれたバディものとは少々趣が異なります。虎視眈々と互いの腹を探り合いつつも、折に触れ認め合いながら事件を解決に導いていくのです。その2人に絡んでくるのが、桜町中央署に刑事として配属された、警視庁副総監の娘・水木直央です。演じるのは上白石萌歌さん。彼女は今どきの若者で、警察官になったのは安定した公務員になりたかっただけで、元々事務職志望だったのです。そんな彼女ですから、刑事の仕事にはノリ気ではなかったのですが、次第に使命感が芽生えるようになるという展開です。基本1話完結のストーリーですが、蓮見や架川が抱える過去が徐々に明らかになっていくことで、ドラマに深みや広がりが生まれていくように思います。

 さて今回のドラマで私が気に入っている要素のひとつが、藤田まことさんが安浦吉之助刑事を熱演されていた、「はぐれ刑事純情派」(テレビ朝日系)へのオマージュです。「はぐれ刑事~」はテレビ朝日を代表するヒット作といって間違いありません。1988年4月の放送開始から、2009年の12月まで、21年にわたってスペシャルを含んで444話が放送されました。「必殺仕事人」シリーズと並んで、俳優としての藤田まことさんの代表作でしょう。

 強面の架川刑事は、なぜかスマホを3台持ち歩いているのですが、そのうちの1台の着メロが「はぐれ刑事~」のテーマ曲になっており、画面には安浦刑事の画像が映し出されるのです。架川は安浦刑事を尊敬して止まない設定で、彼の色紙まで宝物として所有しているのです。作品を超えたこうしたリンク・遊び心は、魅力的なものです。

 ちなみに、若き日の西島秀俊さんが「はぐれ刑事~」に出演されていたことを覚えておられる方もいることでしょう。ドラマがスタートした5日、「大下容子ワイド!スクランブル」に、西島さんは共演の濱田岳さんと共にPRのため出演した際、「僕のほぼデビューが『はぐれ刑事』の新人刑事なので、、、結構本気で緊張します」と、語っていました。プライベートの西島さんとドラマでの架川刑事のキャラクターがひとつになった瞬間でした。

 ただ少しばかり欲を言わせていただけば、序盤を見た限りではありますが、少し「遊び」の部分がドラマの中に多すぎるようにも感じられます。「緊張」と「緩和」は、優れたエンターテインメントを提供する際の必須条件ですが、「緩和」がやや過多になっていることで、心地よい緊張感を存分に味わえていない感が少しあります。ただこれは、これからの緊張感あふれる展開への序章としての演出なのかもしれません。引き続き楽しんでいきたい作品であることに間違いはありません。

今回ご紹介した作品

警視庁アウトサイダー

放送
テレビ朝日系にて毎週木曜よる9時~放送中
配信
TVerにて最新話を1週間無料配信中
TELASAにて全話配信中

情報は2023年1月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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