影山貴彦さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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リクエスト

ブラッシュアップライフ

2023/02/10公開

バカリズムの世界観満開

 こういう仕事をしているせいか?「今期のドラマ、一番のおすすめは何ですか?」と聞かれることがとても多いです。クールによって、迷わず「○○ですね」とお答えできることもあれば、なかなか答えに窮することもあります。例えば前のクールであれば、『エルピス』(カンテレ)と『silent』(フジテレビ)を早々に挙げることができましたので、楽といえば楽でした。

 さて今期のドラマもほぼ中盤にさしかかりましたが、私の一押しは、安藤サクラさん主演、バカリズム脚本の『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ)です。さらにもう1本ということになれば、冨永愛さんのカッコよさが光る『大奥』(NHK)でしょうか。『大奥』についてはまた別の機会に譲るとして、今回は『ブラッシュアップライフ』の魅力について記したいと思います。

 主人公の近藤麻美(安藤さん)は、33歳の独身女性。市役所の窓口で働き平凡ながら幸せな毎日を送っていました。ところが友人たちと楽しく過ごした夜、交通事故であっけなく生涯を終えてしまうのです。悲しい物語とお思いでしょうか?いえいえ違います。ドラマのスタートはここからです。

「死後案内所」へと場面は移ります。そこで麻美を待っていたのが、受付係の男性(バカリズム)です。彼が言うには、あなたは生前の徳が足りないので、人間に生まれ変わることはできないとのこと。しかもあろうことか、次は「アリクイ」に生まれ変わることが決まっているというのですからたまりません。なんとかして人間に生まれ変わりたい麻美は、人生を最初からやり直すことを選択するのです。

 2周目の人生でも結局徳を十分に積むことはできなかった麻美は、現在3周目の人生をやり直しています。1周目の人生で市役所職員だった彼女は,2周目では薬剤師に、3周目ではテレビ局社員となり、ドラマのアシスタントプロデューサーから、プロデューサーの道を歩んでいるのです。余談で恐縮ですが、私の前職はテレビ局員で、妻は薬剤師をしているせいもあり、余計感情移入してしまうのですが(笑)。

 麻美が人生のやり直しを今後何周するのか、人間に生まれ変われることはできるのか、はたまた、死ぬことを回避できるのか、そうした興味はもちろんありますが、私がこのドラマにもっとも惹かれるのは、バカリズムの世界観です。さりげない会話のやり取りの魅力が随所にちりばめられていて、「バカリズム、上手いっ!」と声に出してしまうこともあるほどです。まだご覧になっていない方は、そのあたりをぜひ確認いただきたいところです。

 会話の妙が冴えわたったバカリズム脚本の代表作品は、『架空OL日記』(読売テレビ)でしょうか。女性同士のさりげないやり取りの面白さがクセになった視聴者がとても多く、映画化もされました。ちなみにバカリズムはこのドラマで、「第36回向田邦子賞」を受賞しています。

 人生のやり直しということで、同じくバカリズム脚本の『素敵な選TAXI』(カンテレ・2014)を想起されている方もいらっしゃるでしょう。竹野内豊さん演じる枝分(えだわかれ)はタクシーの運転手で、さまざまな理由から人生の選択に苦しむ乗客をやり直したい過去までさかのぼらせてくれる物語でした。この作品については、バカリズムと共に放送作家のオークラさんが、脚本としてクレジットされています。

 実はバカリズム、それに先んじて、『世にも奇妙な物語2012』(フジテレビ)で、「来世不動産」という作品の脚本を手掛けています。高橋克美さんとバカリズムの2人芝居といってよく、亡くなった男(高橋)は、来世に生まれ変わる物件を斡旋される不動産屋から、生前のすべての行いはポイントされており、人間に生まれ変わるためには高いポイントを有していないとダメと言われてしまうというお話です。「ブラッシュアップ~」の原点は、このドラマにあるように思うのですが、いかがですか?

 安藤サクラさんを始めキャストのみなさんが皆、バカリズムワールドを心から楽しんでいる様子が画面からも十二分に見てとれます。こうしたドラマに出合えると、見る者も本当に幸せを感じることができるものです。

今回ご紹介した作品

ブラッシュアップライフ

放送
毎週日曜よる10時30分~
配信
TVerにて第1~3話と最新話を無料配信中
Huluにて全話配信中

情報は2023年2月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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