影山貴彦さんのドラマ批評

地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。

※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。

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罠の戦争

2023/03/06配信

チーム草彅の熱き思い結集

 次の週が待ち遠しくて仕方がない。草彅剛さん主演の「罠の戦争」(カンテレ制作)はそんなドラマです。人間をもっとも強く動かす感情は「怒り」なのでしょうか。草彅さん演じる鷲津亨には、愛する息子を何者かに傷つけられた復讐を是非成し遂げて欲しいと心から願っています。最近のドラマは「ワンクール」(3か月)といいながら、スペシャル番組が間に十分過ぎるほど?挟まれて、10回に満たないものも少なくありませんが、「罠の戦争」はしっかり全11回、3月27日まで放送されるようなので、まだまだ最終回まで濃厚な味わいを楽しめそうです。

 「銭の戦争」(2015)、「嘘の戦争」(2017)に続き、「戦争シリーズ」の第3弾として制作、放送されているのが「罠の戦争」で、主演は3作すべてが草彅剛さんです。ちなみにそれぞれにストーリーの関連性はありませんが、脚本はいずれも後藤法子さんが務め、演出は関西テレビの三宅喜重さんが関わっています。「銭の戦争」に関しては、パク・イングォンさんの原作がありますが、他の2作については後藤さんのオリジナル脚本です。

 関西テレビと草彅剛さんの縁は深く、「僕の生きる道」(2003)、「僕と彼女と彼女の生きる道」(2004)、「僕の歩く道」(2006)の「僕シリーズ3部作」もカンテレの制作です。私自身も、かつてドラマ制作に携わっていた時代がありますのでよくわかるのですが、番組制作、とりわけドラマはチームワークが重要です。草彅さんの元に結集したスタッフたちの「いいものを作ろう!」という熱き思いが、今回も大いに花開いているように思います。

 いよいよクライマックスを迎えようとしている「罠の戦争」ですが、ご存じない方のためにドラマのアウトラインをご紹介しておきましょう。

 主人公の鷲津亨(草彅さん)は、恩義のある犬飼孝介大臣(本田博太郎さん)の第一秘書として大臣を支え続けていました。ある日、一人息子の泰生(白鳥晴都さん)が歩道橋から転落し大けがを負い、意識不明となります。息子は誰かに突き落とされたに違いないにも関わらず、犬飼は「事故として扱う」ことを鷲津に半ば強要します。背後には、鶴巻幹事長(岸部一徳さん)の影が。味方だと思っていた鴨井ゆう子厚生労働大臣(片平なぎささん)さえ、鶴巻側の人間に見えてきました。2月27日の放送では、鴨井大臣の息子の文哉(味方良介さん)が、泰生を突き落とした犯人ではないかと描かれ始めているのです。

 愛する家族を傷つけられた恨みを晴らす「本丸」に近づくため、失脚した犬飼の後継として衆議院議員になった鷲津。鶴巻幹事長こそが「隠蔽」を画策した黒幕と狙いを定め、罠を仕掛け追い詰めようとするのですが、逆に鶴巻は鷲津をつぶすべく動き始めるのです。鷲津の古くからの友人で衆議院議員の鷹野聡史(小澤征悦さん)も、鷲津を裏切るのでしょうか。

 味方であったはずの人間が敵となるという図式が、劇中これまでいくつも出てきています。そのたびに私など、「負けるな、鷲津っ!」と画面に向かって声援を送っています。クライマックスに向けて、「敵であったはずの人間が味方になる」という展開を見せて欲しいと願っているのです。そのキーマンこそ犬飼大臣であって欲しいのです。「わ・し・づ」という独特の粘着性あふれた喋り方をする怪優・本田博太郎さんが、このままフェイドアウトしてしまうのは、あまりにもったいないと考えるものですが、みなさんはいかがでしょう。

 ちなみにこの作品をご覧になっている方の中には、政治の世界の描き方が単純すぎるのでは?という声もあるようです。確かにそういう一面はあるかもしれません。このドラマに限らず、エンターテインメント的な要素とリアリティーの部分をうまく共存させることは、至難の技です。「ここは現実と違う!」とか、「本当はこうだ!」的な指摘をする方がかつてより多いと思っているのは私だけではないでしょう。なかなか難しい問題ではありますが、フィクションだからこそ描ける世界、ドラマだから出せる面白さもあるのではないかと感じています。

 まだまだストーリー的には二転三転しそうな気配の「罠の戦争」ですが、最終回での鷲津は、妻・可南子(井川遥さん)、意識を取り戻し元気になった泰生とともに、平凡で幸せな日常を取り戻していて欲しいところです。

今回ご紹介した作品

罠の戦争

放送
カンテレ・フジテレビ系列で毎週月曜よる10時~放送中
配信
カンテレドーガ・TVerにて最新話を無料配信中
FOD・Netflixにて全話配信中

情報は2023年3月時点のものです。

筆者一覧(五十音順)

相田冬二

映画批評家

池田敏

海外ドラマ評論家

伊藤ハルカ

海外ドラマコラムニスト

今祥枝

映画・海外TV批評家

影山貴彦

同志社女子大学メディア創造学科教授・コラムニスト

小西未来

映画・海外ドラマライター

辛酸なめ子

漫画家・コラムニスト

辛淑玉

人材コンサルタント

田幸和歌子

フリーライター

寺脇研

映画評論家・元文部官僚

成馬零一

ライター・ドラマ評論家

ペリー荻野

コラムニスト

松本侑子

作家・翻訳家

村上淳子

海外ドラマ評論家

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