地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
波よ聞いてくれ
2023/05/11配信
今期のイチオシ登場!
今年1月期のドラマであれば、安藤サクラさん主演の「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ)、昨年10月期であれば、長澤まさみさん主演の「エルピス―希望、あるいは災い―」(カンテレ)と、それぞれのクールを代表する作品が生まれています。ただ、今期(4月期)はなかなかこれという代表作がなかなか出てこなくて、なんとなくイライラする毎日を送っていました。まあそんな風に思う必要はないのですが、一本面白いドラマがあると、見る方は張り合いが出るものです。先だってこのコラムに書いた、滝藤賢一さん・尾野真千子さん出演の「グレースの履歴」(NHK BSプレミアム・NHK BS4K)は間違いのない名作となりましたが、こちらは3月にスタートしたドラマでした(5月7日最終回/NHKオンデマンドで全話配信中)。民放各局は、ほぼ同時期に新ドラマをスタートさせますが、こうしたNHKの手法は大いにありだと思います。必ずしも全局一斉に番組を始めたり終わらせたりする必要はないのですから。
前フリが長くなり失礼しました。今期、私がイチオシとするドラマは、小芝風花さん主演の「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日)です。原作は沙村広明さんの同タイトルの漫画で、アニメ化もされています。何が素晴らしいといって、小芝風花さんの体当たり演技が最高です。
初回から、小芝さんの勢いに満ちスピード感あふれたセリフ運びに、がっつり心をつかまれました。北海道釧路出身、スープカレー店でアルバイトをする鼓田ミナレ(小芝)は、立ち直れないほどの失恋をします。バーでやけ酒を飲みながら、たまたま隣に座っていた見ず知らずの男性に愚痴話を延々していたところ、そのトークがなんと後日ラジオ番組で放送されてしまいます。
ミナレの愚痴を聞いていたのは、ラジオ局のチーフディレクター・麻藤(北村一輝)という男性で、彼女の才能あふれるトークに感じるところがあり、密かに携帯レコーダーを回し、ミナレになんの許可もなく、自分が制作している番組で、彼女のトークをそのまま電波に乗せたのでした。本来なら間違いなく犯罪ですが、麻藤はまったくひるむことなく、逆にミナレにラジオ番組に出演しないかと、彼女を口説き始めるのです。一風変わったパーソナリティー誕生の第一歩でした。
小芝さんと北村さんのやり取りが、とても魅力的です。小芝さんはこのドラマのために金髪にしているのですが、ミナレの勢いあるキャラクターにとてもフィットしています。私がとても共感を抱いて観ているのが、北村さん演じる麻藤のキャラクターです。ちゃらんぽらんなようでいて実は仕事もできそうな麻藤は、プロダクションとの関係性を優先し仕事をしなければならない日々にいささか辟易していました。そんな時にミナレと出会い、彼女をイチから人気パーソナリティーに育てようと決意するのです。
私の前職は、放送局の番組の作り手なのですが、テレビと共にラジオ番組のディレクター、プロデューサーも務めていました。テレビ・ラジオともに魅力あるメディアですが、ラジオの持つ自由さが私はとりわけ大好きで、当時の懐かしい思い出も一杯あります。一度もマイクを通して喋ったことのない現役女子大生を人気番組のパーソナリティーに起用したこともありました。物語の麻藤とミナレが、私の拙い経験と繋がります。
ミナレがラジオパーソナリティーとして、これからどんな風に成長していくのか楽しみにしたいと思っています。小芝さん、北村さんに限らず、かなりエッジの利いた出演者が揃っていますし、毎回繰り出されるエピソードも相当強烈なものが多いですので、その成長ぶりもクセの強いものになりそうな予感がします。「波よ聞いてくれ」は、きっと小芝風花さんの代表作となることでしょう。
今回ご紹介した作品
波よ聞いてくれ
- 放送
- ABC・テレビ朝日系列にて毎週金曜よる11時15分~放送中
- 配信
- TVerにて最新話を1週間無料配信中
TELASAにて全話配信中
情報は2023年5月時点のものです。