2023/06/08配信

船越英一郎の新たな魅力開花

　読者のみなさんが十二分にお気づきのとおり、ここしばらくドラマの放送本数が増え続けています。地上波テレビはもちろん、BSもそうですし、配信メディアもオリジナルドラマを制作していますので、その数は膨大です。web通販生活の特別企画「2023春ドラマ１話だけ観て採点」企画に、相田冬二さん、田幸和歌子さんとともに参加し、20本の春の新作ドラマを観てコメントさせていただきました。多くの方に読んでいただいたようで、心から感謝申し上げます。とてもありがたい機会を頂戴したと喜んでおり、やりがいも存分に感じましたが、少しばかりハードだったのも事実です（笑）。ピックアップしての20本ですから、実際にはその他にも数多くのドラマが放送され、仕事がらそれらもチェックする必要があります。こうした状況はかつてのテレビの世界にはなかったと思います。

　これだけ多くのドラマが放送されているのですから、正直似たような内容の作品が多いと感じておられる読者も多いはずです。「また〇〇モノかよ」と思ってしまうことがあるのも無理のないところでしょう。そんな中、大いにユニークなドラマが登場しました。6月3日にスタートしたばかりの、船越英一郎さん主演「テイオーの長い休日」（フジテレビ系・東海テレビ制作）。かなり攻めた内容になっており、これからの展開が楽しみな1本です。

　船越さんが演じる主人公は、これまでドラマ出演300作を誇る超大物俳優ながら、各テレビ局が２時間ドラマの制作からほぼ撤退したこともあって、かれこれ1年1か月仕事のない熱護（あつもり）大五郎です。みなさん、もうお気づきですよね。かつて「2時間ドラマの帝王」と呼ばれた人こそ、まさに船越英一郎さんです。もちろん船越さんは、今も大いに売れっ子俳優として第一線で活躍されていますので、そのあたりは、熱護とは違うわけですが、設定の妙が最高ではありませんか。しかも今回、東海テレビと並んで製作にクレジットされているのは、船越さんが所属する「ホリプロ」なのですから、その洒落っ気にも拍手を送りたいところです。

　ただ放送前、私は大いに期待していたと同時に、いわゆる「出オチ」的な内容にならないか、少しばかり気になってもいました。設定はとてもユニークながら、それがいわば番組のマックスで、連続ドラマとして興味を惹きつける中身がついてこない恐れがあるのでは？とも思っていたのです。結論から申し上げます。杞憂でした。十分面白い展開となりそうです。

　極めて偏屈で融通の利かない熱護が所属している小さな事務所をひとりの女性が訪れてきます。かつては芸能マネージャーとして活躍していたその女性の名は、吉田ゆかり。３人の子供を抱えるシングルマザーです。訳あって芸能マネージャーに復帰することを決意したゆかり役を演じているのは戸田菜穂さんです。１話では案の定、熱護とゆかりは、しっかりぶつかり合うのですが、なぜか結局、ゆかりは熱護の住む豪邸に子供たちを連れ引っ越すこととなり、俳優とマネージャー家族の不思議な生活がスタートするのです。

　「役がなきゃ役者は死人も同然」と言い切るほど、俳優の仕事に矜持を抱いている熱護は、自分の考えを決して曲げない、いわば「変われない男」です。一方で、夫を亡くし3人の子供をひとりで育て上げなければならなくなったゆかりは、「変わりたい女」です。元マネージャーとしての実力を発揮して、まさに「テイオーの長い休日」を終わらせることができるかどうかが、ドラマの「核」です。「変われない」はずだった熱護が次第に変化していくかどうかも見ものでしょう。見ものといえば、劇中、船越さんが２時間ドラマで実際に演じていた主人公になり切って、トラブルを解決に導いていくところは圧巻です。テレビ業界の抱える問題点もクローズアップされますので、「ギョーカイドラマ」しての楽しみも味わえます。
　喜劇俳優としての船越英一郎さんの才能が大きく花開く作品となるかもしれません。