地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
シッコウ!!~犬と私と執行官~
2023/07/11配信
伊藤沙莉さんと織田裕二さんのコンビが魅力的
お仕事ドラマも最近はバラエティに富んできました。どちらかと言うと、今までスポットの当たりにくかった職業を取り上げ、映像化するケースも少なくありませんね。
4日にスタートした『シッコウ!!~犬と私と執行官~』は、今期注目している作品のひとつです。原案は小川潤平さんの「執行官物語」ですが、小川さん自身、執行官の経験がおありとのこと。ドラマの脚本を担当しているのは大森美香さん。大好きな方です。読者のみなさんの中にも、そんな方がいらっしゃるかもしれませんが、私が新ドラマに注目するポイントは何をおいても脚本です。出演者よりも脚本家に注目するのって、いささか変わっていると思われるかもしれませんが、ドラマの出来の50%は脚本で決まるのでは?と常々感じているところです。
大森美香さんの代表作は数多く、『不機嫌なジーン』で第23回向田邦子賞、『あさが来た』で第24回橋田賞、『眩(くらら)~北斎の娘~』では、第72回文化庁芸術祭大賞を受賞されています。ちなみに大森さんは、短大卒業後名古屋テレビ放送に入社、経理や秘書業務を担当した後に24歳で退社、つてを頼ってフジテレビの契約ADの職を得つつ、脚本を書きためてデビューに至ったという経歴をお持ちです。
さて、『シッコウ』の紹介に入りましょう。メインタイトルがカタカナになっているのは、堅苦しさを出さないようにするためかもしれませんが、冒頭で触れた「執行官」の活躍を描いたお仕事ドラマと言えるでしょう。初回の劇中、「守られない判決を実行させるのが執行」というセリフがありました。すなわち、強制執行によって財産・金品・不動産などの差し押さえをしたり、あるいは没収したりするのが執行官の仕事です。少し難しく感じられるかもしれませんが、そんなことは決してなく、人間の感情の襞を丁寧に描いたヒューマンドラマと捉えるといいかと思います。物事の善と悪って、必ずしも白黒はっきりさせられることばかりではないといったテイストも内在し、人間味あふれるメッセージが作品の底流に流れていくのでは?と予想しています。
主人公の吉野ひかりを演じているのが、伊藤沙莉さんです。地元の信用組合で事務員として働いていたひかりは、ずっと憧れだったペットスパサロンにやっと就職します。ですが、そこで与えられた仕事は、ペットと全く関わることのない秘書兼事務業務。テレビ局に入社した頃の大森さんの経歴と重なりました。
ひかりが新生活を始めたアパートは、お世辞にも恵まれた環境とは言えませんが、そこでたまたま出会った怪しい男性こそ、執行官の小原樹(いつき)です。彼は、そのアパートに住む一家の家賃滞納に関する調査を行っていたのでした。やがて家族はアパートを出ていくことになりますが、他者を愛する精神を持つひかりは、その家族との別れの際、心根の優しい対応をするのです。そんな姿に心動く小原。シビアに業務を遂行する小原ですが、実は彼自身も情に厚い人間のようで、同時に自らの仕事に日々疑問も感じています。ちなみに彼は元々裁判所の書記官で、執行官に転じてからまだ1年目というキャリアなのです。
せっかく職を得たひかりでしたが、ペットスパサロンは負債を抱え、上野原社長(板谷由夏)たちは夜逃げしてしまいます。この社長もひと癖ありそうです。そして、ほぼボランティアに等しい保護動物カフェのアルバイトとしてリスタートを図ったひかりを「執行補助者」としてスカウトする人こそ、小原なのでした。今後、ひかりと小原はバディを組んでさまざまな事案と向き合い、ぶつかりあい、悩みながら互いに刺激しあって前に進んでいく姿が描かれることでしょう。ペット好きのひかりと犬が苦手な小原というコントラストも、今後のストーリーに影響しそうです。
今乗りに乗っている伊藤沙莉さんと、これまでとは一味違ったキャラクターをまとった織田裕二さんの組み合わせがとても新鮮で魅力的な「シッコウ」。お勧めです。
今回ご紹介した作品
シッコウ!!~犬と私と執行官~
- 放送
- テレビ朝日にて毎週火曜よる9時から放送中
- 配信
- TVerにて最新話を1週間無料配信中
TELASAにて全話配信中
情報は2023年7月時点のものです。