地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
転職の魔王様
2023/08/03配信
すべての働く人、これから働く人の参考になる「ポジティブ」ドラマ
昔話ですが、若い人にわずかなりともお役に立てばと思い、記します。
私が就職活動を行った1985年、当時は「シューカツ」なんて言葉はもちろんありませんでした。7月になるとまずは銀行、損保、生保、そして証券といった金融業界から採用が始まりました。ついで商社、それから各種メーカーという順番で行われ、当時の「会社訪問解禁日」である10月1日から放送局や広告代理店、そして11月1日から新聞社や出版社の採用が始まったのでした。ちなみに年次は、3年生ではなく4年生です。今だと4年生の11月って、ほとんどの大学生が「シューカツ」を終えている時期ですよね。マスコミの採用が最後に行われていたのが、その頃の特徴でした。今はむしろ一番早かったりしますよね。
余談ですが、この年は阪神タイガースが球団創設以来初の日本一に輝いた年でもあります。
時代は変われど、就職は私たちの人生に少なからず影響を与えるものです。だからこそ、38年も前のことを今でもはっきり覚えているのでしょう。携帯電話もメールもない時代の話です。大学の教え子たちが企業からの「お祈りメール」に意気消沈している姿を見ると、まんざら私たちの時代って悪くなかったかなとも思えてきます。「インターンシップ」なんて制度もなかったですね。その会社のことがしっかり分かるようになるのは、結局入社してからと考える私ですが、いかがでしょう。もちろん制度を否定するものではありませんが。
さて長い前置きはこのあたりにしして、本題へ。転職を作品の大きなテーマに据えたドラマ「転職の魔王様」(フジテレビ系・カンテレ制作)を毎週楽しみにしています。私も40歳を前に放送マンから大学教員に転職している人間ですが、今、大学新卒者のおよそ3人にひとりが3年以内に転職を経験しているのだそうです。ちなみにその比率は、私の勤務する大学のゼミ卒業生たちとピタリと一致するのです。ちょうど7月31日の放送でも取り上げられていましたが、「石の上にも3年」のことわざの如く、3年間は何が何でも辛抱するという考え方は、今の若い人たちには薄いようです。むしろ、自分の能力をより発揮できる環境を求めて真摯に新しい職場を探すことは、良きことであるという価値観が社会全体に浸透しているように思います。もちろん、なんでもかんでも変わればいいというものではないことは、改めて言うまでもありませんが。
悪質なパワハラににより、大手広告代理店を退職した未谷(ひつじたに)千晴を演じているのは、小芝風花さんです。春ドラマでは、「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日系)で、型破りなラジオパーソナリティー役を熱演し、作品は見事ギャラクシー賞月間賞(6月期)に輝き乗りに乗っている小芝さん、本作では、パワハラに遭いながらも、持ち前の責任感ある性格のため「自分が至らないのだ」と追い込んだ末に心身に異変を生じ、いまでも味覚障害の後遺症に悩まされているという繊細なヒロイン役に挑戦しています。
そんな千晴が叔母の落合洋子(石田ゆり子さん)が社長を務める転職エージェント会社を訪れた際、キャリアアドバイザーとして紹介されたのが、「転職の魔王様」こと来栖嵐(成田凌さん)だったというわけです。仕事の腕は確かながら、ひとクセもふたクセもある来栖に翻弄されながら、結局転職活動を止めた千晴は、彼のもとでキャリアアドバイザー見習いとして働き始めます。毎回エージェント会社を訪れる人々の相談を受けながら、来栖や洋子、あるいは周囲の人たちから成長のエネルギーを吸収し、彼女はこれから少しずつ成長してゆくのでしょう。
「ちょっと現実的過ぎて怖い」という教え子の感想も聞きました。逆に言えば真に迫っているということでしょう。すべての働く人、そしてこれから働く人に大いに参考になる、「ポジティブ」なドラマだと思います。
今回ご紹介した作品
転職の魔王様
- 放送
- 関西テレビ・フジテレビ全国ネットにて毎週月曜よる10時~放送中
- 配信
- TVer、カンテレドーガにて最新話を1週間無料配信中
Netflix、FODにて過去話を配信中
情報は2023年8月時点のものです。