2023/08/30配信

謎解きだけではもったいない秀作

　今期のドラマでもっとも話題になっている作品は、やはり「VIVANT」でしょう。ウェブ通販生活に掲載されている「1話だけ観て2023夏ドラマ採点」でも、田幸和歌子さんと私は1話を見た段階で☆３つをつけました。ただ往々にしてそういう時というのは、「竜頭蛇尾」的な内容に萎んでしまうことも少なくないのですが、「VIVANT」においては要らぬ心配でしたね、って失礼しました！　今日私が推すのはそのドラマではありませんでした。

「VIVANT」に匹敵する面白さを発揮しているのが、中村倫也さん主演の「ハヤブサ消防団」（テレビ朝日系）かなと私は捉えています。日本テレビの水卜麻美アナウンサーと結婚したのも記憶に新しい中村さんですが、彼のユーモアセンスのある繊細な演技は、今回の作品に大いにマッチしています。結婚後初の連続ドラマ主演に相応しい秀作に仕上がっていると思います。

　原作はヒットメーカー池井戸潤さんによる同名の小説です。そういえば、「VIVANT」は、TBS系日曜劇場での放送ですが、この枠は読者のみなさんもご存じのとおり、「半沢直樹」や「下町ロケット」を始め、池井戸潤さんの小説を原作にしたドラマが数多くありますね。ただ今回の「VIVANT」はオリジナル作品で、一方の「ハヤブサ～」が池井戸さんもの。たまたまなのでしょうけど、なんだかちょっと面白い流れとなっています。

　売れっ子作家ながらスランプ状態が続いていたミステリー作家の三馬太郎（中村さん）が、亡くなったお父さんの故郷である、自然あふれるハヤブサ地区を訪れるところから物語は始まります。ほどなくハヤブサの魅力にひかれた太郎は、東京から移住します。それは結果的にスランプから脱出する「光」を見出すことになり、出版社の担当編集者・中山田（山本耕史さん）も意気上がります。
　アウトドア系にはほぼ縁のないインドアなインテリの太郎でしたが、気がつけばクセの強いおっさんたちの集団、「ハヤブサ消防団」の団員となります。そんなおっさんたちに囲まれたほのぼのしたストーリーがずっと展開するのかと思わせておいて、そこで留めないのが池井戸作品の上手さでしょう。

「連続放火事件」、「太陽ソーラー」、「新興宗教」。それらがキーワードとなり、ドラマはミステリアスな展開へと私たちを誘います。そのミステリー的な要素にもっとも欠かせない人物こそ、太郎より少し早くハヤブサ地区に引っ越ししてきた謎の映像作家・立木彩（川口春奈さん）です。ネタバレは抑え気味にしておきますが、紅一点といってもいい彼女がドラマの大きなカギを握っていることは間違いありません。太郎と彩の関係性の変化にも注目です。中村さんが結婚後初の連続ドラマ主演ならば、川口さんは、あの一世を風靡したヒットドラマ「silent」以来の連続ドラマ出演となります。この作品を選択したのが、川口さん本人の意志によるものか、あるいは事務所サイドの戦略かは分かりませんが、いずれにせよ、今回ミステリアスな役に臨んだのは、川口さんにとって大成功だったと言えるはずです。

　 物語は終盤を迎え、ネットニュースを中心に「謎解き」に忙しい様相を呈しています。それは「VIVANT」についても同じでしょう。もちろん、そういう部分が大事なのは良くわかるのですが、別に私たちは答え合わせをするためにエンターテインメントを楽しんでいるわけではないと思うのです。少し話を拡げれば、「伏線回収」という言葉を今メディアが好んで使いたがりますが、この表現も、同じような理由から正直あまり好きになれない私です。

　今までに挙げた、中村倫也さん、川口春奈さん、山本耕史さんにとどまらず、「ハヤブサ消防団」の団員たちには、生瀬勝久さん、橋本じゅんさん、梶原善さん、岡部たかしさん、満島真之介さんら素晴らしい俳優たちがキャスティングされています。結末を確認するだけでなく、魅力あふれる演技のぶつかり合いを堪能するには、２倍速視聴はもったいなさ過ぎるはずです。