地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
遥かなる山の呼び声
2023/09/30配信
阿部寛さん、本当にカッコいい方です
高倉健さん主演の映画「遥かなる山の呼び声」が公開されたのが、今から43年前の1980年のことでした。細かなあらすじを紹介することは控えておきますが、極めて大雑把に記しますと、北海道を舞台に、人に言えない過去を背負っている男と、亡き夫が残した牧場を経営する女性(倍賞千恵子さん)とその息子との触れ合いを描いた作品です。日本版「シェーン」とも言われている名作で、監督は山田洋次さんです。
この映画がNHKによりドラマ化されたのが、2018年のことです。タイトルはもちろん変わらず「遥かなる山の呼び声」。主演は阿部寛さんでヒロイン役は常盤貴子さんでした。時代設定を現代に置き換えており、監督は「釣りバカ日誌シリーズ」で知られる朝原雄三さんが務め、脚本には山田洋次さんがその名を連ねています。ドラマの好評を得て、昨年2022年には「続 遥かなる山の呼び声」が放送されました。いずれもBSプレミアムでスペシャルドラマとしての単発放送でした。
そして現在、9月23日から全4回予定で放送されている「遥かなる山の呼び声」は、2018年と2022年のドラマ2作品に、未公開シーンを追加したディレクターズカット版です。今回は地上波・NHK総合での放送です。BSで人気を博した番組を地上波で放送するスタイルは、昨今NHKが時にする手法ですが、この度も視聴者からの好評を受けてという流れが十分想像できます。配信が充実してきたとはいえ、テレビ番組はメディアの特性上、元来放送されるとそれで終わりといういわば「宿命」を背負っているものですが、優れた番組が、このような工夫を経て視聴者に提供されることは、大変喜ばしいことだと思います。
阿部寛さんが高倉健さんの主演映画のリメイクドラマに出演するのは、実は「遥かなる山の呼び声」が初めてではありません。高倉健さんの代表作に数えられ、数多くの映画賞を受賞した「幸福の黄色いハンカチ」(1977年・山田洋次監督)のリメイクドラマが、日本テレビによって2011年に制作・放送されたのですが、そこで主演を務めたのも阿部寛さんでした。その時は正直、「やっぱり健さんの方がいいなあ」と思った私でしたが、ドラマ版「遥かなる~」に触れ、「阿部さんバージョン、健さんに引けを取らないぞっ!」と改めて感じている私です。是非読者の皆さんも見比べて頂けたらと思います。高倉健さんも阿部寛さんも「ストイックさ」の似合う人ですよね。
阿部寛さんと私の間に、実はささやかな思い出話があります。
私はかつて大阪に本社のある毎日放送(MBS)でテレビ・ラジオ番組の制作業務に携わっており、ディレクターやプロデューサーを務めていました。当時担当していた生放送番組のある日のゲストが阿部寛さんでした。主演映画のキャンペーンのための出演だったはずです。映画会社の方が局のスタジオまで案内してくれるということで安心して待っていたのですが、待てど暮らせど阿部さんはやって来ません。言うまでもなく生放送番組ですから、間に合わなければどうしようもありません。そんな時、マネージャーの方から電話が入りました。なんとMBSと朝日放送(ABC)をタクシーの運転手さんが聞き間違いして、誤ってABCに来てしまったというのです。ABCの方もきっと驚かれたことでしょう。
幸いといいますか、MBSとABCの社屋は距離的にそれほど離れていませんので、阿部さんは無事に間に合い、番組に出演いただくことができました。「そんなことある?」とお思いの読者の方が多いでしょうが、実は結構あるのです。心からホッとしました。
無事本番を終えて、改めてご挨拶した私に阿部さんは、「どうもすいませんでした!」といち早くしっかり詫びてくれたのです。長身の身体を折り曲げ頭を下げてくれたことを今でもはっきり覚えています。
それ以来私は、阿部寛さんの大ファンになったというオチは不要ですね。阿部寛さん、先日好評のうちに放送を終えた「VIVANT」同様、本当にカッコいい方です。
今回ご紹介した作品
遥かなる山の呼び声
- 放送
- NHKにて毎週土曜よる8時~
- 配信
- NHK+にて最新話を1週間無料配信中。
NHKオンデマンドにて全話配信中。
情報は2023年9月時点のものです。