地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ハコビヤ
2024/2/6配信
シンプルさが奏功の人間ドラマ「ハコビヤ」
「1話だけ観て2024冬ドラマ採点企画」が読者のみなさんに大変好評をいただいていると、先日ウェブ通販生活の編集部の方からお聞きしました。相田冬二さん、田幸和歌子さんと共に喜びを分かち合っています。本当にありがとうございます。
そんな中の「2024冬ドラマ」ですが、正直なところ、今回は「これだっ!」という作品になかなか出合えないでいます。テレビ番組の作り手出身の私としては、出演者・スタッフのみなさんの苦労が十二分に理解できるだけに、厳しいコメントをすることに躊躇する部分もあるのですが、そこは「愛するテレビのため」と考え直し、あまり甘いコーティングはせず、できるだけ思ったところを述べるように心がけているところです。
私の思い過ごしかもしれないのですが、昨今のドラマには、レギュラー出演者があまりにも多いケースが目立つように感じられます。サイドストーリー的なものを本編とは別の形で塗しているものも散見されます。おそらく、バラエティに富んだ出演者をキャスティングして、いくつかの物語を絡めることで、視聴者を引き付けておきたいという作り手の考えがあってのことでしょうが、時に逆効果になっている場合はないでしょうか。
設定が突飛で視聴者が置いてきぼりというドラマもありますね。ただ、現実にはあり得ないお話がダメということでは全くありません。バカリズムさん脚本で安藤サクラさん主演の話題作「ブラッシュアップライフ」は、主人公が人生を何周も生き直すお話でしたが、視聴者の大いなる共感を呼んでいました。中途半端なウソは冷めてしまう、ウソをつくなら大胆に、ということかもしれません。
今回も長いイントロとなり、失礼しました。そんな私が今お気に入りのドラマは、田辺誠一さんと影山優佳さんが出演する「ハコビヤ」です。タイトルだけでそそられるものがありました。クリント・イーストウッドが監督・主演した「運び屋」という名作が2018年に公開されていますので、なんとなくハードボイルド系のお話を想像していたのですが、違いました。
おそらく「ハコビヤ」のドラマスタッフは「運び屋」のことはしっかり調べた上で制作していることでしょう。オマージュの意味も込めて、カタカナ表記にしているのかもしれませんね。「運び屋」が、麻薬を運ぶ仕事に手を染めてしまう老人の物語であるのに対し、「ハコビヤ」は、昼は洋食屋としてリーズナブルなランチを提供し、夜は通常の宅配業者には頼むことのできないモノ、時には人を運ぶ仕事をする男の物語なのです。
それだけ書くと、「ハコビヤ」もハードボイルドでは?とお考えになる方もいるかもしれません。確かに主人公の白鳥剣(田辺さん)は過去に何かあったようですし、アルバイトとして白鳥と一風変わった形でバディを組むことになった天野杏奈(影山さん)も秘密を抱えている風です。白鳥はまだ気づいていないようですが、二人の関係性にも隠された事実がありそうです。
ただ、物語は人間味あふれるエピソードが毎回読み切りで綴られていくのです。洋食屋のウラの顔を知る依頼者が店を訪れ合い言葉を言うと、白鳥は店の2階に案内し話を聞きます。ワケありのややこしそうな依頼もあるわけですが、依頼を受けた彼は、天野とともに洋食屋の名前がドアに記された可愛らしい車に乗って、荷物を届けに行くのです。その結果、新たなエピソードが出てくるのですが、そこから先は白鳥も天野も深入りすることはしません。あくまでもミッションはそこで終了です。ですが、見ている私たちになんとも言えない余韻を残してくれるのです。出演者を絞り込み、ストーリーをむやみにややこしくしていないことに好感を持ちます。田辺誠一さんと影山優佳さんの年の離れたバディとしてのやり取りもお楽しみください。
今回ご紹介した作品
ハコビヤ
- 放送
- テレビ東京系で毎週金曜24時52分~放送中
- 配信
- U-NEXT、Amazonプライムビデオほかで配信中
情報は2024年2月時点のものです。