地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
お別れホスピタル
2024/3/5配信
生きること、死ぬことを考えさせられる秀作
自分が年を重ねたということも関係があるのでしょうが、ここしばらくまだ若くしてお亡くなりになった有名人の訃報に心を痛めることが多いように思います。
人は誰もが例外なく鬼籍に入るわけですが、日々の生活で常にそのことをしっかり意識している人は必ずしも多くはないでしょう。けれどふとした時に死についてしみじみと考えたりもするわけです。決して明るい話題とは言えませんが、私自身還暦を過ぎ、残された人生について思いを馳せることが以前より増えました。死ぬことを想像することは、即ち生きることに思いを巡らせることに繋がるのですね。
さて、今回はいつもと違う導入でしたが、生きること、死ぬことを決して過度に重苦しくなく考えさせてくれるドラマが「お別れホスピタル」(NHK総合・全4回)です。シリアスなテーマだけにしっかりと噛み応えがありますし、一筋の希望を持たせてもくれる秀作です。地上波での放送は終わりましたが、配信等でご覧になれますので是非多くの方に観て頂きたいと思います。
ドラマの原作は沖田×華さんの同名の漫画で、主演は岸井ゆきのさんです。今、NHKの朝ドラ「まんぷく」がBSで再放送中ですね。こちらは2018年10月から2019年3月まで放送されていました。先だっての当コラムでも「まんぷく」のことを記しましたが、岸井さんは同作で、安藤サクラさんが演じたヒロイン福子の姪・タカ役を好演していました。ここ数年、作品にも恵まれ確実に存在感を増し、素晴らしい女優に成長している人だと思います。
脚本は安達奈緒子さん。実は同じく沖田さん原作の「透明なゆりかご」が、NHKで2018年に放送されました。その脚本も安達さんで、演出については柴田岳志さんがどちらも携わっています。ちなみに清原果耶さん主演の「透明なゆりかご」は、産婦人科の看護師見習いとして活躍するヒロインの姿を真摯に描き、第73回文化庁芸術祭(テレビ・ラジオ部門)大賞を始め、数多くの賞に輝いています。この作品と今回の「お別れホスピタル」は、「生」と「死」を考えるというテーマ性に相通じるところがあると思うのです。看護師の資格をお持ちの沖田さんだけに、物語に説得力があります。
「お別れホスピタル」の舞台となるのは病院です。ただタイトルに「お別れ」とあるとおり、残された命がわずかであることを宣告されていたり、認知症を伴う病気でケアが必要となった患者たちが入院する療養病棟でのお話が綴られていきます。岸井さんが演じる役は、そこで働く看護師・辺見歩です。療養病棟に移って2年、病気が快復して退院するというケースはほとんどない環境で従事する仕事は、決して生半可なものとはいえません。歩自身、家族の問題も抱えながら患者ひとりひとりと向き合っています。心が折れそうになることもありながら、彼女は明るさ、ひとさじのユーモアを忘れることなく日々励んでいるのです。
職場には彼女を支えてくれる同僚もいます。そのひとりが歩のいる病棟に異動してきたばかりの、医師・広野誠二。演じるのは松山ケンイチさんです。広野はひとりを好み、人と交わることが決して得意とはいえないキャラクターですが、歩たちから何かしら影響を受けていくのです。看護主任・赤根涼子役を演じておられる内田慈さんも素晴らしく、ヒロインをしっかりと支えている大切なキャラクターです。そんな彼女自身がやがて大きな問題を抱えるのですが、そのあたりはドラマをご覧いただきたいところです。
そして忘れてはならないのが、患者あるいはその家族を演じる俳優のみなさんが、実に名優揃いだということ。大げさでなく全員が主演を張れるほどの方々です。きっと作品に惚れ込んで出演を決められた方が多いのではないかと想像しています。「お別れホスピタル」、皆さんの期待を裏切ることはないでしょう。ぜひお楽しみください。
今回ご紹介した作品
お別れホスピタル
- 放送
- NHKオンデマンド
情報は2024年3月時点のものです。