地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
春になったら
2024/3/28配信
互いを思いやる愛あふれる「春になったら」
1月ドラマ総括の時期を迎えています。なんと言っても宮藤官九郎さん脚本、阿部サダヲさん主演の「不適切にもほどがある!」(TBS系)が頭ひとつ抜きんでて面白かったように思いますが、「ふてほど」と合わせて語りたいのが、原田泰造さん主演の「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」(フジテレビ系・東海テレビ制作)でしょうか。この連載でもご一緒している田幸和歌子さんも、「ふてほど」と「おっパン」の魅力に相通じることについてコラムで指摘しておられました。「ふてほど」では、クドカンが1980年代半ばの特性をデフォルメして笑いにしていましたが、自らをアップデートする必要性をメッセージした点において、2つのドラマは互いにリンクしあったと言えるはずです。
「ふてほど」の最大のテーマとされるのは「家族愛」、そして「生きることの尊さ」でしょう。そういう意味では、今回私が取り上げる奈緒さんと木梨憲武さんが親子役を演じられた「春になったら」(フジテレビ系・関西テレビ制作)とも見事にフィットするのです。「ドラマは時代を映す鏡」とよく言われますが、まさに改めてそうだなと感じています。コロナ禍で大きなダメージを受け続けてきたり、かつてない災害が立て続けに起こる社会に生きる私たちにとって、一番大切にしなければならないものは何か?について、改めて深く考えるようになったことが、テレビドラマのテーマ性に反映しているに違いないのです。
「春になったら」は決して明るいお話ではありません。ですが、いわゆる「お涙頂戴」的な展開に走り過ぎることなく、笑いのテイストを塗したホームドラマに仕上げているところに好感を持ちます。
助産師として働く椎名瞳(奈緒)と実演販売士として大いに活躍する父・雅彦(木梨)。雅彦の妻・佳乃が20年ほど前に交通事故で亡くなった後は、父と娘の2人暮らしです。元日の食卓で、瞳と雅彦は互いに報告があると切り出します。瞳は「3か月後に結婚する」こと、一方の雅彦は「(末期のすい臓がんのため)3か月後に死んでしまう」ことを同時に伝え合うのでした。それがドラマのオープニングです。
脚本は福田靖さん。ベテランで実力ある書き手なだけあって、さすがの導入でした。
衝撃的な初回だっただけに、ともすれば徐々に中だるみしてしまう危険性も孕んでいたかと思いますが、瞳には「結婚までにやりたいことリスト」を、そして雅彦には「死ぬまでにやりたいことリスト」を作らせ、それをひとつひとつ実現したり、あるいは変更するという展開にしたことで、視聴者の興味を惹きつけ続けたのです。瞳の結婚相手をバツイチ子持ちで、東大中退の売れない芸人というプロフィールにしているのも効いています。そんな瞳の彼・川上一馬を演じているのは濱田岳さん。間違いなく上手い俳優さんですね。
案の定、雅彦は2人の結婚には反対するのですが、それがどのような変化を遂げていくのかは、ドラマをお楽しみください。父の視点から見るか、あるいは娘の視点から見るかで、このドラマの受け止め方が微妙に違うかもしれません。木梨さんも奈緒さんも、娘を思う父の思いや、父を愛するが故の娘の感情を見事に表現しています。加えて申し上げれば、「ふてほど」との共通点を「家族愛」とさきほど述べましたが、「他者への愛」、あるいは「寛容性」という部分でも相通じるのではないかと思うところです。
私がとりわけ好きなのが第4回です。長年心の中に引っ掛かっていたことを払拭するため、かつての親友と数十年ぶりの再会を果たす雅彦のエピソードが描かれていきます。親友・神(じん)健一郎を演じておられるのが、中井貴一さん。謝る側のはずだった雅彦でしたが、彼の知らなかった衝撃の?事実を聞くことになります。プライベートでも交流の深い、木梨さんと中井さんだけに、なんとも言えない面白さが滲んでいました。
今回ご紹介した作品
春になったら
- 配信
- FOD、Netflixほか
情報は2024年3月時点のものです。