地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
花咲舞が黙ってない
2024/6/10配信
「半沢直樹」の登場で魅力さらに増す
「花咲舞が黙ってない」のタイトルを聞くと、多くの読者のみなさんは杏さんの活躍を思い出されるかもしれません。ご推察のとおり、このドラマはこれまで2014年と2015年、2度にわたって日本テレビ系で連続ドラマ化されており、大いに話題となりました。原作はヒットメーカー・池井戸潤さんの小説です。今回9年の月日を経て続編が放送されているのですが、主役の花咲舞役には杏さんではなく今田美桜さんが起用されました。
キャスティングが発表された際、正直なところ少し意外に感じました。杏さんのキャラクターに比べ、今田さんでは少し線が細いのではないかと思ったのです。ところがそれは要らぬ心配でした。今田さんの最近の女優としての活躍は目覚ましいものがあります。映画では目黒蓮さんと共演した「わたしの幸せな結婚」で高評価を受けましたし、ドラマでも「いちばん好きな花」(フジテレビ系)で、デリケートな役柄を見事に演じきっていました。若い俳優の方がグングン成長する姿に触れられるのは、とても嬉しいものです。もちろん彼女が伸びたのはこの2作品に限らないでしょうが、「花咲舞は黙ってない」での今田さんの姿を見るにつけ、瞳の奥に何か自信のようなものが生まれているのを感じています。
今田さん演じる主人公・花咲舞は、メガバンクである東京第一銀行で働いています。ある日「臨店班」に配属されたことから、舞のバンカーとしての日々は大きく変化していくのです。「臨店班」は、業務上何らかの問題を起こした支店に直接出向いていき、改善を要望することを任務とするセクションですので、当然のことながら多くの行員からは疎ましがられることになりますし、なかなか協力を得ることもできず厳しい局面に置かれることも少なくありません。ですが彼女は持ち前のバイタリティと明るさで難局から逃げることなく、正面から向き合い問題解決に全力を尽くそうとするのです。
「臨店班」での舞のバディーとなっているのが、山本耕史さん演じる相馬健です。今回、山本さんのキャスティングが作品全体に大きく貢献していると感じます。3月まで放送され社会現象となるほど話題になったドラマ「不適切にもほどがある」(TBS系)でも、クセは強いけれど憎めないテレビマン役として活躍されていました。山本さんが出演する作品に触れると妙に安心するというか、「このドラマ間違いなし!」と見る者を思わせてくれる信頼感に包まれるのです。そんな思いを抱くのは私だけではないでしょう。今回もまさにその流れです。
「お言葉を返すようですが!」が花咲舞の決め台詞で、杏さんの時代からそれは続いています。今田さんの啖呵ですが、なかなかどうして堂々たるものです。放送前に「少し線が細いのでは?」と思ってしまったこと、お詫びしなければなりません。時にはこの台詞を山本さんが言ってみたり、ストレートな啖呵とは異なるニュアンスを滲ませてみたりと、演出の妙も感じられるところです。
演出の妙でいえば、杏さんの時代にバディーとして出演していた上川隆也さんは、今回ヒロインの叔父・花咲健役を演じておられます。これまで舞の父親役を務められた大杉蓮さんに代わり、上川さんにその役をとの考えもあったらしいのですが、亡き大杉さんへの思いが上川さんの中に強くあり、叔父役となったそうです。そんなエピソードからもこのドラマのチームワークの良さを感じます。そしてもうひとつ、第5話から登場している「半沢直樹」です。演じているのはTBS日曜劇場での堺雅人さんではなく、なんと劇団ひとりさん。「半沢」も「花咲舞」も原作はどちらも池井戸潤さんということで、TBSと日本テレビの局の垣根を超えて実現した面白い試みです。劇団ひとりさんバージョン「半沢」の加入で、物語の展開に魅力が増しました。こうした遊び心をドラマに取り入れること、私は大いにアリだと思っています。
今回ご紹介した作品
花咲舞が黙ってない
- 放送
- 日本テレビ系で土曜21時~
- 配信
- hulu、TVerなど
情報は2024年6月時点のものです。