地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
新宿野戦病院
2024/8/16公開
弱者に対する眼差し優しい名作
今年1月から3月にかけて放送されたTBS系のドラマ、「不適切にもほどがある!」については、ご覧になっていた方はもちろん、結局いまだ全く観たことがない方でさえ、大まかな作品の内容とともに、クドカンこと宮藤官九郎さんの脚本であること、主演が阿部サダヲさんであること、この作品を通じて河合優美さんが一気に注目される女優になったことくらいはご存じではないかと思います。各メディアがこぞって取り上げ、当時ネットニュース等では、「ふてほど」の文字を見ない日はないほどまでになりました。
そのヒートアップぶりは、日本だけにとどまらず、世界三大通信社のひとつに数えられるフランスのAFP通信までもが、3月の末に同作の特集記事を組んだほどでした。優れた番組として数多くの賞にも輝きましたが、とりわけ放送業界における「国内最高の栄誉」とも称されるギャラクシー賞において、テレビ部門特別賞とマイベストTV賞グランプリのダブル受賞を果たし、5月31日に都内のホテルで開催された贈賞式では、主演の阿部サダヲさん、プロデューサーの磯山晶さん、ディレクターの金子文紀さんが登壇され、満面の笑みでご挨拶されていました。
その後、磯山プロデューサーはTBSを退社され、ネットフリックスと契約を結んでドラマ制作に従事されることがメディアで報じられました。クドカンとのタッグによる新作がネットフリックスの配信を通して見られる日が訪れるようです。テレビを取り巻く環境も大きく変化し始めていると言えるでしょう。
とはいえ、宮藤官九郎脚本のネットフリックスでの新作は、もう少し先のことかと思いますので、「今」のお話を致しましょう。7月3日からフジテレビ系で放送されているのが、「新宿野戦病院」です。フジテレビのドラマの脚本をクドカンが担当するのは、23年ぶりのこと。覚えていらっしゃる方も多いでしょうが、織田裕二さんが主演した「ロケット・ボーイ」がそれです。実はその作品で演出を務められていた河毛俊作さんが、今回の「新宿野戦病院」でもその名を連ねられています。
ドラマのタイトルにある通り、舞台は新宿です。歌舞伎町にある「聖まごころ病院」は、普通の病院とは少しばかり趣が異なっており、ワケあって一般の病院では診察してもらいにくい患者たちが集います。主演は小池栄子さんと仲野大賀さん。英語と岡山弁でまくしたてる小池さん演じるヨウコ・ニシ・フリーマンの姿は、強烈なインパクトに溢れています。ヨウコはアメリカでの軍医経験を持ち、極めて「雑」ながら飛び切り一級の手術の腕を持つ外科医ですが、日本の医師免許は持っていないようです。一方仲野さんの役柄は、金儲けを何よりも重視するちゃらんぽらんな性格の美容皮膚科医・高峰亨。名前を聞いてケーシー高峰さんを想起する人は、私と同世代以上の方でしょう。(笑)
病院経営が決して順調とは言えない中、ひと癖もふた癖もあるアクの強い人々が織りなすヒューマンストーリーですが、序盤からクドカンは「情報の洪水」かと感じるほどに、さまざまなエピソードを劇中に放り込みました。それを「しんどい」と感じた人がいるかもしれませんし、かなり現実離れした設定になじめなかった視聴者もいらっしゃるかもしれません。その気持ち分からなくはないのですが、一度騙されたと思って各回を2度ご覧になっていいただきたいと思うのです。「渋滞」していたかに見えたひとつひとつのエピソードが、絡まった糸がほどけていくように、やがてスッキリと見えてくるはずです。
クドカン作品は、その多くに「人間に対する慈しみ」ともいうべき世界観が深く横たわっています。とりわけ弱者に対する優しい眼差しが向けられる場合が多いと思います。「新宿野戦病院」もその例外ではありません。「なんべん死のうとしてもぜってぇ助ける。わしの勝手じゃ!」。ヨウコのセリフは、その象徴でしょう。今期を代表するドラマに挙げたいところです。
今回ご紹介した作品
新宿野戦病院
- 放送
- フジテレビ系で水曜22時~
- 配信
- FDO、TVer
情報は2024年8月時点のものです。