地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
団地のふたり
2024/10/11公開
小泉今日子と小林聡美が奏でる欲深さの対極にある幸せ
日曜の夜といえば、翌日からの仕事のこと等が頭に浮かんでブルーな気持ちになりがちです。けれど今このドラマが放送されているおかげで、私は穏やかな時間を過ごすことができています。
その作品が「団地のふたり」です。ネットフリックスドラマで、大きな話題を呼んでいる「地面師たち」のような過激な作品ももちろんいいのですが、人生の折り返しを過ぎた私たち世代の視聴者を優しく包んでくれるようなドラマは、いわば心の栄養剤としてじんわり沁みるものですよね。
野枝(小泉今日子)と奈津子(小林聡美)は保育園からの幼なじみの50代半ば。野枝は大学の非常勤講師をしていて、片道2時間もかけて勤務先の学校に通っています。准教授に採用されそうなところまでの話がかつてあったようですが、ちょっとしたことがあって見送られた過去があります。奈津子の方はイラストレーターを業(なりわい)としていますが、仕事はさほど順風満帆とはいえません。ただ、かつてはかなりの売れっ子だった時期もあるようです。
そんな二人は、生まれ育った団地に50歳を過ぎてから戻ってきました。野枝は、父(橋爪功)と母(丘みつ子)との3人暮らし、奈津子の方は、母が介護のため家を空けており、ほぼひとり暮らしのような状況です。
結婚・恋愛、そのあたりも、それぞれそれなりに色々あったようではありますが、今は講義おわりの野枝が奈津子の部屋を訪ね、一緒にご飯を食べながら他愛もない話をするのが至福の時間になっているのです。物語は団地のシーンを主に進んでいくのですが、小泉さんと小林さんの掛け合いが実に自然で息ぴったり、とても魅力的なのです。調べてみると、実年齢でもおふたりは同級生でした。長年の親友そのものといった感じですが、私たちにそう見えるのは、何にも増して彼女たちの演技が素晴らしいからに他なりません。
毎回ささやかで、ちょっといいエピソードが紡がれていきます。野枝の兄・厚志(杉本哲太)が団地に残していった昭和のガラクタのようなお宝グッズをフリマアプリで高く売り、そのお金で夕食のおかずをちょっと豪華にしてみたり、団地の名物ご近所さん、佐久間のおばちゃんこと絢子さん(由紀さおり)に頼まれ、網戸の修理を2人で請け合い感謝されたりしています。その後、おしゃべりな絢子さんのおかげでそのことが団地の住人たちに広まり、修理の依頼が殺到する羽目になったのは笑えました。古くからの団地の人にとっては、野枝も奈津子も「若手」扱いなのも興味深いところです。
幼い頃の切ない経験を思い出したり、団地に長く住む人たちだけでなく、新たに引っ越してきた人たちとのやり取りから広がる様々な出来事に首を突っ込むことになったり、時には自分たちの家族の話が取り上げられてみたりと全く飽きることがありません。全10話のうち週替わりのゲストが登場するだけでなく、中盤以降登場する魅力ある俳優さんたちがいたりもします。ゆるやかに進んでいくストーリーの中にある独特の深さある世界観に、きっと皆さん没入するに違いありません。原作は芥川賞作家、藤野千夜さんの同名の小説です。
野枝も奈津子も自らの半生を振り返って、きっと色々思うところがないわけではありません。愚痴がつい口から出てしまうことだって、もちろんあるわけです。ただ、何よりも大切なのは、今かけがえのない親友とともに、ホームタウンである団地でかけがえのない時間を過ごしているということです。欲深さの対極にある、ピュアな幸福感がそこにはあるのです。2人の姿を見て、「何と羨ましい!」と感じる視聴者はきっと数多いはずです。そして何より、友達の大切さをこのドラマは再認識させてくれるのです。年を重ねれば重ねるほど、友達の存在は貴重かもしれません。ちょっとご無沙汰している友人に久しぶりに連絡を取ってみようかな、今、私はそんな気持ちになっているところです。
今回ご紹介した作品
団地のふたり
- 放送
- NHK BSで日曜22時~
- 配信
- NHKオンデマンド
情報は2024年10月時点のものです。