地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
おむすび
2025/1/6公開
「おむすび」を食いつきにくくしたのは?
現在放送中の「おむすび」は、NHKの連続テレビ小説(通称・朝ドラ)第111作目にあたるドラマで、橋本環奈さんがヒロインの米田結役を務めています。ご存じの方も多いかと思いますが、民放など多くのドラマは1クール(3か月)単位で放送されるケースがほとんどの中、朝ドラは2クール(半年)にわたって放送されます。時間は1分程度の主題歌を含んで15分ですが、コマーシャルの挿入がないため、密度として時間以上のものがあります。ドラマ本編は、月曜から金曜までの週5本ですが、このスタイルは2020年度上期の「エール」からで、それ以前は長らく月曜から土曜の週6本の放送が続いていました。視聴者の生活パターンの変化とともに、「働き方改革」に触れたニュースも当時ありました。
私はかつて、民間放送で月曜から金曜まで放送されていたお昼の帯ドラマの制作に携わっていたことがあります。その頃がテレビマンとして体力的にはもっともしんどかったと記憶しています。正直、目を開けている間はずっと仕事しているくらいの感覚でした。ただ大学の教え子たちにとって、私の苦労話は大いに興味があるようで、真剣に耳を傾けます。何が役に立つかわかりませんね。いずれにせよ、帯ドラマの制作は本当に体力勝負だということです。関係者の方々の日頃の頑張りを讃えたいところです。
前作「虎に翼」の大いなる人気を受けてスタートした「おむすび」。物語は折り返しを過ぎ安定してきており、欠かさず楽しんで見ています。橋本さんを始め、出演者たちの熱演が光ります。ただ、「虎に翼」ほどのインパクトを視聴者に残せていない感が若干あります。また再放送枠として、かつて高評価を得た「カーネーション」(2011年度下期)と「カムカムエヴリバディ」(2021年度下期)が放送されているため、「おむすび」の影がやや薄く思われるのかもしれません。ちなみにNHK朝ドラの制作は上期が東京放送局(AK)、下期が大阪放送局(BK)の担当です。「カーネーション」も「カムカムエヴリバディ」のどちらもBKの制作です。
前置きが長くなりました。今回は、やや苦戦気味?の「おむすび」の気になったポイントを挙げたいと思います。物語は、2004年の福岡・糸島編から始まり、2007年からの兵庫・神戸、そして大阪編に移ります。実は、結の家族は糸島に暮らす前は神戸で暮らしていたのですが、そこで阪神・淡路大震災で被災したため、結の父・聖人(北村有起哉さん)の実家のある糸島へ引っ越しています。その背景についてはドラマ序盤を過ぎてから徐々に明らかになりました。2025年の今年は、阪神・淡路大震災から30年にあたります。そのことと、「おむすび」が作品の大きなテーマとして、この震災を取りあげたことは深く関係があるでしょう。
ただ、いきなり震災の辛い場面から物語を始めることを制作陣は避けたかったのかもしれません。その気持ち、十分理解できます。私自身、阪神・淡路大震災で被害を受け、その直後から報道特別番組の制作にも携わりました。年を重ね、辛い記憶は少し薄まりましたが、今もなお生々しく心に刻まれたままです。でもだからこそ、時系列で話を紡いだ方が視聴者にしっかり伝わったのではないでしょうか。糸島編でのギャルエピソードの違和感が一部で言われましたが、そのあたりも時代を順序立てて描くことで、ヒロインとギャルとの関係性について説得力が増したのではないかと思うのです。その鍵を握っていた、結の姉・歩(仲里依紗さん)と親友との震災にまつわる辛い話も、物語冒頭近くで視聴者にある程度提示した方が良かったのではないでしょうか。朝ドラの王道スタイルは、ヒロインの成長を子役時代から描いていくものですが、今回は初回から橋本環奈さんを登場させ、子供時代の辛いエピソードは中盤でインサートする形を取りました。「おむすび」の序盤やや乗り切れない感を生んだのは、その点にあったかも?と思う私です。
今回ご紹介した作品
おむすび
- 放送
- MHK総合にて月~金曜8時~放送中
情報は2025年1月時点のものです。