地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
東京サラダボウル
2025/2/10公開
奈緒と松田龍平のW主演が圧巻
突然ですが、松田龍平さん、ますますお父さんの松田優作さんに似てきたな。そう思っているのはきっと私だけではありませんよね。いえ、似ているという表現はもはや適切ではないかもしれません。ますます素晴らしい俳優になったな。そういう表現に改めたいところです。
今回取り上げるのは、NHK総合テレビで毎週火曜夜10時から放送されている、ドラマ10「東京サラダボウル」です。NHKのドラマ10枠ですが、今絶好調と呼んでいいほど良作が続いています。ちなみに前作は、窪田正孝さんが定時制高校の先生役を演じられた「宙わたる教室」で、見事ギャラクシー賞月間賞を受賞しています。
「東京サラダボウル」は、奈緒さんと松田龍平さんがダブル主演されている、新宿を舞台とした刑事ドラマと言っていいかと思いますが、ただの刑事モノではありません。第1回目からヒリヒリした緊張感、しゃれた雰囲気、緊張と緩和の絶妙なバランスの虜になっている私です。今期を代表するドラマを3本挙げるとすれば、間違いなく「サラダボウル」は入るでしょうし、ひょっとしたらナンバー1かもしれないと感じるほど気に入っている1本です。
ドラマの原作は、黒丸さんの同名漫画ですが、原作には「―国際捜査事件簿―」のサブタイトルが付いています。ちなみに彼女の代表作には、山下智久さんが主演したドラマのみならず映画もヒットした「クロサギ」があります。「東京サラダボウル」は、前述のおふたりが主演なのですが、よくぞこの2人を引き合わせてくれたと、制作関係者に拍手を送りたいところです。それほどお互いの息が見事にピッタリ合っているのです。劇中の奈緒さんの鮮やかな食いっぷりにも注目です。
松田さんが演じているのは、警視庁の中国語通訳人・有木野了。元警察官の経歴を持ち、辛い過去を背負っていることが、回を重ねるごとにじわじわと明らかになっています。一方もうひとりの主役が、奈緒さん演じる緑色の髪の毛をした「レタス頭」の国際捜査警察官、鴻田麻里です。ふとしたきっかけで出会ったふたりでしたが、有木野のすぐれた能力に惚れ込んだ鴻田は、早々に彼をスカウトし、いわばバディとなって外国人居住者の方たちの知られざる日々の暮らしや人生にスポットを当てながら、毎回事件を解決に導いていくのです。クールで抑えめなキャラクターの有木野に対して、弾けるほどの明るさを持った鴻田ですが、実は彼女にも人知れぬ悲しい過去がありそうです。
このドラマの魅力は、事件解決そのものよりも、そのプロセスから見えてくる人間模様にあると言えるでしょう。外国人居住者の数は年々増加傾向にある一方で、その内実をしっかり理解できている人は数少ないかもしれません。加えて私たちの心の片隅に、外国人居住者の方たちに対して、偏見あるいはそれに類する感情がないと言い切れるでしょうか? 物語は、そんなメッセージをじわりと伝えてくれもしているのです。
「東京サラダボウル」、改めていいタイトルだなと思います。「人種のるつぼ」という表現がありますが、皆さんご存じのように英語では「メルティングポット」といいます。すなわち、多種多様な民族や文化が互いに溶け合っている状況を指しますが、「サラダボウル」は意味合いが少し異なっていて、それぞれが溶け合うのではなく、おのおのの特徴を生かしたまま存在し形成されているさまを表現した言葉なのです。「サラダボウル」のような東京の街、大学時代の4年ほどしか住んだことがない私ではありますが、なるほど言い得て妙かも、と頷かされた次第です。
最近噛み応えのあるドラマが少ないと感じている読者のみなさん、大人の魅力満載の本作にどっぷり浸かってみてはいかがでしょう。
今回ご紹介した作品
東京サラダボウル
- 放送
- NHK総合にて毎週火曜22時~放送中
情報は2025年2月時点のものです。