地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
19番目のカルテ
2025/9/1公開
「人」を診る総合診療科医を松本潤が好演
今期(7月期)スタートのドラマの中でもっとも視聴率を獲得しているのが、松本潤さん主演の「19番目のカルテ」です。松本さんは今回、初めての医師役に挑戦していますが、興味深いのはドラマよくありがちな敏腕な外科医等ではなく、比較的なじみの薄い総合診療科医役を務めているということです。
私事ながら親戚が医師をしています。その彼が総合診療科医なのです。医学生だった20年ほど前、「将来は何科に進むの?」と聞いたところ、「総合診療科に行こうと考えてる」と笑顔で答えました。「どんなところ?」と言葉を重ねると、「それぞれの科がフォローし切れない部分をすくい取る科だよ」と教えてくれました。「おもしろそうだね!」とリアクションしたものの、正直あまりよくわからなかったというのが、当時の本音でした(笑)。きっと彼も今、ドラマを熱心に見ているはずです。
今回のドラマの原作は、富士屋カツヒコさんの漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」(コアミックス)で、2019年12月に連載がスタートし、現在も続いています。富士屋さんは、昨年テレビ東京系で放送されたドラマ、「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」の原作漫画の作画も担当されています。少々風変わりな、けれど人間的に魅力あふれる弁護士・保田理の活躍を描いた痛快な作品で、主演を務めていたのは中島健人さんでした。
松本さんが演じている徳重晃ですが、こちらも風変わりと言えば風変わりで派手さもありません。普段の松本さんとは程遠い、少々冴えない風体だったりもします。ですが患者に対する思いは半端ではありません。「病気を診ることに留まらず、人(患者)を診る」姿勢は、彼の師匠である赤池登(田中泯さん)譲りです。赤池は日本の総合診療科設立に尽力した人物で、現在は離島の診療所で地域医療に力を注いています。徳重は温厚で物静かな印象ですが、実はかつてはそうではなかったと赤池の口から語られたりもしました。短い期間、救急診療医だったことも劇中分かりました。
徳重には大切なパートナーがいます。整形外科医から希望して総合診療科にやってきた、小芝風花さん演じる滝野みずきです。滝野は徳重から多くを学び成長していくのですが、松本さんと小芝さんのやり取りが魅力的に映ります。松本さんは今回の抑えめな演技が素晴らしいのですが、小芝さんもNHK大河ドラマ「べらぼう」での伝説の花魁役等を経て一回り大きくなった感があり、今後がますます楽しみです。他の共演陣たちが物語を大いに盛り立てますが、週替わりで登場するゲスト出演者たちの貢献も大です。初回での仲里依紗さんのインパクトの強さが、ドラマを大きく引っ張りましたが、その後も津田健次郎さんを始め、名だたる俳優陣がドラマを支えています。
脚本の素晴らしさを語っておかなければなりません。「19番目のカルテ」の脚本は坪田文さんです。坪田さんは、綾野剛さんが患者に寄り添う産婦人科医を好演し、大きな話題となった「コウノドリ」の脚本も担当していました。ふたつの作品はもちろん全く別ですが、主人公が患者のことを真摯に考える心優しき医師という点がリンクしあいます。情感のあるドラマは坪田さんが得意とするところです。
劇中では病院経営についても触れられます。徳重のように、ひとりひとりの患者と丁寧に向き合うことは医療の理想です。ただ、現在全国6割以上の病院が赤字経営に陥っていることも忘れてはならない現実なのです。以前その点を拙文に記したことがあるのですが、その際に坪田さんから、「医療の現実を考えさせられながら書いているので、そこに触れていただき嬉しいです」というメッセージを頂戴しました。そんな彼女が綴っているからこそ、ドラマにより深みが生まれているのだと思います。
今回ご紹介した作品
19番目のカルテ
- 放送
- TBS系にて毎週日曜21時~放送中
- 配信
- U-NEXT、Netflixにて配信中
情報は2025年9月時点のものです。