地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ちょっとだけエスパー
2025/12/5公開
大泉洋と野木亜紀子が紡ぐ世界観
笑うだけでは済ませない深みも
2025年10月期スタートのドラマは、かなり豊作だったように思います。竹内涼真さんと夏帆さん主演の「じゃあ、あんたが作ってみろよ」も面白いですし、11月スタートのNHK夜ドラ「ひらやすみ」の岡山天音さんもいい味を出しています。
その2作については他のライターの方にお任せするとして、私が今期もっとも推したいのは、大泉洋さん主演で野木亜紀子さん脚本の「ちょっとだけエスパー」です。大泉さんの幅広い活躍についての説明は不要でしょう。野木さんに関しても、ドラマ好きの読者のみなさんであれば、改めて私が拙い解説をする必要のない、今や日本を代表する脚本家のおひとりです。主な代表ドラマ作品に「逃げるは恥だが役に立つ」、「アンナチュラル」、「海に眠るダイヤモンド」などがあり、昨年公開された映画「ラストマイル」も大きな話題となりました。そうそう、今年のお正月に単発ドラマとして放送された「スロウトレイン」も温かい秀作でした。ちなみに、いずれもTBSの作品です。脚本家によって傾向はありますが、なんとなく関わりが深い局が各々の脚本家であるのは興味深いところです。
「ちょっとだけエスパー」は10月21日にスタートしたテレビ朝日制作のドラマです。文太(大泉さん)は、自らの横領が会社にばれクビになり、家族にも逃げられ貯金もなくなって、ネットカフェで気力のない日々を過ごしていました。そんな時、とりあえずと思って受けたのが「ノナマーレ」という会社です。最終面接で、岡田将生さん演じる社長の兆(きざし)から怪しげなカプセルを飲むよう促された文太は、その指示に従い見事? 内定を得るのです。カプセルの効用がまた変わっており、「ちょっとだけエスパーになる」というもので、その能力を使って世界を救ってくれと、兆は文太に命じます。そして同時に「決して人を愛してはならない」とも釘を刺すのでした。
理解に苦しむミッションを受けながら、謎の女性・四季(宮﨑あおいさん)と疑似夫婦として、ひとつ屋根の下で暮らすことも兆社長は求めます。矛盾していますよね。彼女には辛い過去があり、文太のことを自らの夫と思い込んでいるようです。彼が徐々に四季にひかれていくのは、いわば極めて自然なことだと言えるでしょう。大泉さんと宮﨑さんのやり取りが、とても魅力的です。そして忘れてならないのが共演陣で、ひとクセもふたクセもある強力な布陣です。なでまわすと花を咲かせることができる桜介(ディーン・フジオカさん)、動物と会話ができ頼みごとをしてしまう半蔵(宇野祥平さん)、念じたモノが少し温かくなる能力を持った円寂(高畑淳子さん)らと共に、文太は世界を救うためのミッションに着手するのです。ちなみに彼の超能力は、人に触ったり触られたりすると相手の心が読めるというもの。文太の能力が一番エスパーらしいかもしれません。さらには四季にも……。
兆からのミッションは、どこか笑えるようなささやかな類が多くを占めつつ、シリアスなものが塗されていくのです。そこから先の展開については、是非ドラマをご覧いただきたいところですが、肝となるのは「個人の幸せ」と「世界平和」の関連性ではないでしょうか。文太や四季を始め、桜介や半蔵あるいは円寂のひとりひとりが、心に抱えた辛い過去を乗り越えてゆく。それこそが世界の平和につながるというコンセプトではなかろうかとおぼろげに考えているのですが、私の拙い予想など遥かに超えてくるのが、野木脚本でしょう。
最後に。物語の鍵を握る大学生、市松(北村匠海)の存在を忘れてはいけませんね。彼がエスパーたちに近づいてきたことで、中盤からもう一段ドラマの魅力が増していきます。SF色たっぷりで楽しく見られますが、軽く笑って済ませようと思っていると、いい意味で裏切られそうです。
今回ご紹介した作品
ちょっとだけエスパー
- 放送
- テレビ朝日系にて毎週火曜21時~放送中
- 配信
- TELASA、Netflixなどで配信中
情報は2025年12月時点のものです。














