地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ばけばけ
2026/3/2公開
笑いをベースに敷いたことで魅力増す
「わたしの一番最悪なともだち」というドラマをご存じでしょうか? 2023年8月から12月まで、NHK総合の「夜ドラ」枠として全32話が放送されました。制作はNHK大阪放送局で、2023年10月度のギャラクシー賞月間賞にも輝いています。
主演の大学4年生・笠松ほたる役を演じたのが、蒔田彩珠さん。現在放送中の日曜劇場「リブート」でも若手刑事役を好演しています。そして、ヒロインの家の近くに住んでいる「天敵」的な幼なじみの同級生・鍵谷美晴役を演じたのが、髙石あかりさんでした。ほたるにとって、美晴は何をやってもかなわないまぶしい存在。それ故に、どこか引っかかるものがあるのでした。就職活動で連戦連敗だったほたるでしたが、美晴のキャラクターを自分のものとして装うことで、急に調子が出始め難関の会社の内定を得ます。ほたると美晴の心の襞を蒔田さんと髙石さんが見事に演じていました。
改めて申し上げるまでもなく、好評のうちに今月で幕を下ろすNHK朝ドラ「ばけばけ」のヒロイン・トキを演じているのが、髙石あかりさんです。「わたしの~」を楽しく見ていた私は、「きっと近いうちに、蒔田さんか髙石さんのどちらかかが朝ドラのヒロインになるに違いない!」と予想していました。どちらかと言えば、蒔田さんの方が先ではないかとも考えていたのですが、そこは外れました(笑)。それにしても髙石さん、見事な成長ぶりです。朝ドラを通じて若手俳優が大きくなっていく姿に視聴者はしばしば触れられます。23歳とは思えない風格さえ最近は漂ってきているように感じるのは、きっと私だけではないでしょう。
「ばけばけ」の魅力について少し綴ることにしましょう。正直にカミングアウト致しますと、序盤はそれほどハマっていなかった私です。「怪談」にもさほど興味はなかったですし、画面の暗さや、オープニングのスタッフテロップが小さすぎて読みにくいのも(のちに改善)気になっていた点でした。いい意味で、おやっ? と思い始めたのは「スキップ」のエピソードからです。第38話の劇中、ビールを飲んでご機嫌なヘブン先生(トミー・バストウさん)がスキップをしたことがきっかけとなり、さまざまな登場人物がスキップの練習をし始めるのです。もちろんトキもそのひとり。ですが些かセンスがないのでしょう、彼女だけなかなか上達しません。必死にスキップの練習をする様子だけで物語1話分を引っ張った、作り手の皆さんの勢いに拍手喝采でした。おそらく朝ドラ史上初だったことでしょう。
脚本を担当した・ふじきみつ彦さんは、「ばけばけ」の制作発表で「何も起きない物語を書いています」とおっしゃいました。ただ、その時はまだ1文字も書いていなかったとも後日語っておられます。「スキップ」はまさに、「何も起きない」ストーリー展開の勝利でしょう。もちろん現実には、小泉八雲さんも妻のセツさんも、そして周囲の人々、あるいは社会全体にも、さまざまな大変なことが起こっているわけです。ふじきさんは、そうしたことも描きつつも「柔らかさ」を忘れず筆を進められていたのだと思います。髙石さんを始めとする俳優陣ももちろん素晴らしいのですが、ふじきさんの「柔らかさ」が「ばけばけ」を引っ張ったのではないでしょうか。
ふじきさんはインタビューで、みんなどこか悲しみや切なさを抱えて、その苦しみを何とかしようと真面目に生きている姿が笑えたらいいと思うと語っています。「真面目な姿が笑える」、確かにそうですね。シリアスなシーンもこれまでいくつかありましたが、決してそれを引っ張り過ぎず笑いに転化している感があります。笑いが敷かれているからこそ、シリアスな感動が本作ではより際立ったと言えるかもしれません。
いずれにしても、NHK朝ドラの歴史にまたひとつ名作が刻まれたことは間違いのないところだと思います。
今回ご紹介した作品
ばけばけ
- 放送
- NHKにて毎週月曜~金曜8時~放送中
- 配信
- NHKオンデマンドにて配信中
情報は2026年3月時点のものです。














