地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
ミッドナイトタクシー
2026/7/3公開
古川琴音と兵藤るりの世界観に没入
仕事としてメディアにドラマ評を連載するようになって10年以上経ちます。番組スタート前に作品の情報収集はしますが、あまり過度にならないよう心掛けます。そうする理由は、最終的に自身の経験に基づく「勘」を頼りにしているところがあるのです。情報が多すぎると、想像力を膨らませる余地が少なくなりますので、それを避けたいと無意識に考えているのかもしれません。
「これは絶対おもしろいはず!」と予想したドラマが期待ハズレの時もありますし、逆にほとんどノーマークだった作品に、ぐいぐい引き込まれることもあります。連続ドラマに関するコラムを書き続けることは正直楽ではありませんが、とても興味深い作業です。
NHK夜ドラの「ミッドナイトタクシー」の内容について、同局のホームページには、『2025年、向田邦子賞を最年少受賞した注目の脚本家・兵藤るりが書き下ろしたオリジナルストーリー。東京で深夜タクシーのハンドルを握る主人公・象子(古川琴音)はミステリアスな雰囲気をまとったドライバー。彼女の車に乗った客は、心の殻を取り払われて素の本音を語りだす』と記されていました。
もはや、これ以上の情報は不要でしょう。絶対面白いに違いないと直感した私はすぐ、通販生活コラム編集担当の方に、「次は『ミッドナイトタクシー』で書かせてくださいっ!」と連絡したのでした。幸いその「勘」に間違いはなく、現在放送されているドラマの中でも、トップクラスの魅力を私は感じています。
読者の皆さんがご存じのように、NHKの夜ドラは月曜から木曜まで放送で、番組尺は15分です。「ミッドナイトタクシー」は6月1日にスタートしており、8週間にわたって全32話が放送される予定です。ちなみに私は、この原稿を3週まで見終えた段階で記しています。そのため後半で、ドラマが一気に違う方向に展開することになれば、正直焦ってしまいますが、恐らくそうはならないでしょう。
ドラマの一番の魅力は主演の古川琴音さんの卓越した表現力、そして脚本の兵藤るりさんが紡ぐ台詞の深さに違いありません。古川さんと兵藤さんは同世代で、まだ20代の若さです。先だって「若者のテレビ離れ」が顕著に進んでいるとの報道がありました。それだけに、若い人たちが瑞々しい感性で素晴らしいドラマを作っている状況に触れると、とても嬉しくなるのです。
古川さん演じる象子は、決して客に愛嬌をふりまくドライバーではありません。むしろ、不愛想といったほうが適切です。ですが仕事はできますし同僚からの信頼も厚く、誠実にひとりひとりと向き合います。だからこそ、彼らは心の内にしまっていたはずの感情の欠片をふと象子に吐露してしまうのかもしれません。毎回のように違ったゲストが登場します。1回だけかと思うと、何度も出てくるケースもあります。客たちが内面に抱えた問題も多岐にわたります。ちょっと風変わりな友情や恋愛、家族関係の難しさ、仕事の悩みなど、さまざまですが、時に現実離れしたファンタージ的なエピソードも塗されています。ゲスト出演する名優たちの数は、総勢30人を数えるとか。
物語には大きく2つの柱があります。タクシーの乗客たちとの交流がひとつの柱とすれば、もうひとつの柱は象子自身のことです。家庭的にやや恵まれない生い立ちの彼女は、30歳を間もなく迎えることを契機に、自分自身の心の「探し物」をみつけるべく「大掃除」をすることを決意します。感情の表出が得意ではない象子ですが、心の中にはこれまで表に出したことのない「探し物」が隠れているのでしょう。そんな彼女ことを愛おしく見守る伯母・弥生を演じている和久井映見さんと、象子行きつけの喫茶店のマスター・昼川役の竹中直人さんの包容力がたまらなくいいのです。映像や音楽もとても洒落ていて、お酒を一杯やりながら楽しみたい、そんな世界観のドラマに没入しています。
今回ご紹介した作品
ミッドナイトタクシー
- 放送
- NHK総合にて毎週月~木曜22時45分~放送中
- 配信
- NHKオンデマンド、PrimeVideoなどで配信中
情報は2026年7月時点のものです。














