地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
日曜の夜ぐらいは…
2023/05/23配信
一話ごとに印象が変わる「岡田惠和」ワールド
朝日放送テレビが制作する岡田惠和脚本のドラマ『日曜の夜ぐらいは…』は、テレビ朝日で新設された日曜夜10時枠の第一作。
本作は、ファミレスで働くお内裏様こと岸田サチ(清野菜名)、タクシードライバーのけんたこと純子(岸井ゆきの)、ちくわぶ工場で働くわぶちゃんこと樋口若葉(生見愛瑠)の物語だ。
ラジオ番組のバスツアーで出会った3人は楽しい時間を過ごすが、連絡先を交換することなく別れてしまう。だが、3人で買った宝くじが当選したことでサチは二人と再会。3000万円の賞金を3人で山分けしたいと提案する。
3人はどこにでもいる働く女性で、裕福な生活を送っているわけではなかった。だから大金が手に入ったことで人生の活路が開かれる物語になるのかと思いきや、中々うまくいかない。
第1話の印象では、シリアスな人間ドラマとして進んでいくかと思われた物語は、第2話で宝くじの一等当選というまさかの奇跡が起こる。だが、第3話では、むしろ宝くじの当選が不幸を呼び寄せてしまうのではないか? という不穏な気配が描かれる。
つまり、一話ごとに作品の印象が変わっていくため、先の展開が全く読めないのだが、興味深いのは、どこか岡田惠和自身が過去作をなぞっているように見えること。
1990年にデビューした岡田惠和は今もテレビドラマの最前線で活躍する脚本家だ。
彼の作風は大きく分けると、山田太一の影響下にあるリアル志向のオリジナルドラマとファンタジー志向の漫画原作モノに別れるのだが、『日曜の夜ぐらいは…』の第1話を観た印象は『彼女たちの時代』(フジテレビ系)のような、リアル志向の物語になるかと思われた。
しかし第2話では宝くじに当選し、サチたちと、なぜか頻繁に偶然出会う市川みの(岡山天音)の浮世離れした存在感が際立っていくという非現実的なシーンが続く。これは岡田の代表作である連続テレビ小説『ちゅらさん』(NHK)などのドラマで確信犯的におこなった偶然の連鎖によって、あえてファンタジー感を強調する展開だが、第3話では、宝くじの当選によって、不仲の両親が現れ、お金をせびるというダークな展開となり、善人ばかりが登場すると言われる岡田作品の中では例外的に悪を描くことに振り切った問題作『銭ゲバ』(日本テレビ系)を彷彿とさせる展開となった。
もしかしたら本作は、岡田の過去作の要素が全て盛り込まれた総決算となるのかもしれない。
それにしても、はじめに『日曜の夜ぐらいは…』というタイトルを聞いた時は「日曜の夜ぐらいはこのドラマを観て、苦しいことを忘れて、楽しい一時を過ごしましょう」という優しい意味だと思っていた。
しかし本作のトーンは常に重々しく、毎週観終わるとクタクタに疲れてしまう。
だが、この重苦しさは嫌いではない。
近年のテレビドラマは現実を忘れて楽しい一時を過ごしましょうと優しく語りかけるようなストレスのかからない作品が増えている。この状況は、現実の日本を取り巻く環境がひどくなっていることの反映で、『日曜の夜ぐらいは…』風に言うと「きつい時に食べるコンビニで一番高いアイス」のような存在としてしか、ドラマが求められなくなっているからだ。
岡田も2016年の連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)以降は、視聴者にできるだけ負荷がかからないファンタジー志向の優しいドラマが続いていた。
WOWOWで放送された『そして、生きる』以外の作品では、楽しいやりとりの背後に、うっすらと見え隠れするようなものとしてしか、辛い現実は描かれなくなっていた。
しかし、その反動なのか『日曜の夜ぐらいは…』は、これでもかと辛い現実を突きつけてくる。まるで「日曜の夜ぐらいは、思っていることを言わせてよ!」と叫んでいるようなドラマである。
辛くて観ていられないという視聴者も多いかもしれない。しかし、束の間の癒やしではなく、問題の根幹とじっくりと向き合う本作のような重苦しいドラマにこそ、筆者は救いを感じる。
今回ご紹介した作品
日曜の夜ぐらいは…
- 放送
- ABC・テレビ朝日系列にて毎週日曜よる10時~放送中
- 配信
- TVer、ABEMAにて最新話を1週間見逃し配信中
TELASA、U-NEXTで全話配信中
情報は2023年5月時点のものです。