地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
THE DAYS
2023/06/20配信
世界59ヶ国でランキング入り。福島原発事故を描いた日本ドラマ
Netflixシリーズ『THE DAYS』独占配信中
Netflixで全8話一挙配信されたドラマ『THE DAYS』は、2011年3月11日の東日本大震災の影響で起きた原発事故の内幕を描いた事実を基づく物語だ。
大地震とその影響で発生した大津波によって福島第一原発は全電源喪失となり、四基の原子炉が暴走しはじめる。このままでは炉心溶融(メルトダウン)が起きるという緊急事態の中、総理大臣を中心とした日本政府、東電(劇中では東央電力)本店、そして、福島原発で事故の対応に追われる現場関係者たち三者の視点を通して、あの日、何が起きていたのかを本作は描いている。
監督は『リング』などのホラー映画で知られる中田秀夫と、ドラマ『コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)のチーフ演出で知られる西浦正記。
そして本作の企画・プロデュース・脚本は、西浦と共に『コード・ブルー』シリーズを手掛けた元フジテレビ・プロデューサーの増本淳が担当している。
フライトドクターたちの葛藤を描いた医療ドラマ『コード・ブルー』はシーズン3まで作られ、2017年に制作された劇場映画が大ヒットした人気シリーズだ。
ドクターヘリで事故現場に向かい、医師たちが極限状態の中で患者と向き合う場面が多かったため、列車事故やトンネルの崩壊といった大規模な災害を描く場面が多く、映画版『コード・ブルー』でも羽田空港と海ほたるの事故現場がディザスタームービーとして迫力ある仕上がりとなっていた。その映像を観て、もしも西浦と増本が『シン・ゴジラ』のような怪獣映画を制作したら、凄まじい作品になるのではないかと当時思ったのだが、震災と原発事故のイメージを怪獣に象徴させた『シン・ゴジラ』の方向性ではなく「事実を基づいた物語」というドキュメンタリースタイルの連続ドラマを増本と西浦が作ったことには、驚くと同時に納得するものがあった。
原案となっているのは門田隆将によるノンフィクション『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)。
本書は映画『fukushima 50』の原作にもなっている。映画も福島原発事故を政府関係者、東電本店、原発事故の対応に追われる福島原発の作業員たちの三者の視点で物語が進んでいくのだが、作品から受ける印象は『THE DAYS』とは真逆だ。
Netflixシリーズ『THE DAYS』独占配信中
福島原発事故に立ち向かった約50人の作業員たちに海外メディアが与えた呼称・フクシマ50をタイトルにしていることからもわかるとおり『Fukushima 50』は、原発事故に立ち向かった人々の英雄譚として描かれており、復興五輪と言われていた2020年の東京オリンピック・パラリンピックの年に劇場公開することで、過去の悲劇を乗り越え未来へと向かう日本人の姿と重ねられていた。
対して『THE DAYS』は冒頭に流れる「あの日々は何だったのか? いや…過去形で語るのはふさわしくない。あの日々は何なのか?」というナレーションからわかるように、過去形ではなく今も影響が続いている現在進行形の出来事として内幕を描いている。
何より大きく違うのが、作品から視聴者が受け取る時間の感覚だろう。
全8話という長尺を使って『THE DAYS』は地震の後に起きた数日間の出来事をゆっくりと紡ぎ出していくのだが、このゆっくりとした時間の流れが重苦しい緊張感と恐怖感を与えている。
何が起きているのか全貌を把握できずに右往左往する劇中の人々の姿を見ていると事故のニュースをテレビやネットを通して固唾を飲んで観ていた時の不安な気持ちを思い出す。
Netflixシリーズ『THE DAYS』独占配信中
メルトダウンが起きれば、福島を中心とした250キロ圏内の東日本は数十年に渡り、人が住めなくなる。その結果、5000万人が住む所を失い、多くの企業は移転を余儀なくされ、日本経済は数年に渡って機能停止となり、日本は北海道と西日本に分断されると総理大臣はレクチャーを受ける。
当時も今も筆者は千葉に住んでいるのだが、あの時感じた絶望的な気持ちを思い出した。
センシティブな題材ゆえに賛否はあるだろうが、あの日感じた恐ろしさを追体験させてくれる貴重なドラマである。
予告編
今回ご紹介した作品
THE DAYS
Netflixにて独占配信中
情報は2023年6月時点のものです。