地上波にBS・CS、ネット配信と、観られるドラマの数がどんどん増える昨今、本当に面白いドラマはどれなのか──。ドラマ批評の専門家や各界のドラマ好きの方々が、「これは見るべき!」というイチオシ作品を紹介します。あなたの琴線に触れるドラマがきっと見つかるはず。
※紹介する作品は、コラム公開時点で地上波・BS/CS・ネット配信などで見られるものに限ります。
季節のない街
2023/09/21配信
山本周五郎の同名小説に惚れ込んだ宮藤官九郎が念願のドラマ化
季節のない街 ディズニープラス「スター」で全10話独占配信中
宮藤官九郎が企画・監督・脚本を務めた全10話のドラマ『季節のない街』が8月9日にDisney+で一挙配信された。
物語の舞台は“ナニ”と呼ばれる12年前の災害で家を失った人々が暮らす仮設住宅。この街で暮らす人々は、月収12万を超えると「即立退き」という厳しい条件の中で日々を過ごしていた。
原作は1962年に刊行され、ロングセラーとなっている山本周五郎の同名小説(新潮文庫)。
1970年に公開された黒澤明監督の映画『どですかでん』の原作としても知られている。
宮藤は『どですかでん』を黒澤明監督の映画の中で一番好きだと語っており、原作小説を繰り返し読む中で、いつか自分の手で映像化したいと考えていたという。
黒澤映画の中でも『どですかでん』は評価が大きく分かれる作品だったため、この発言を聞いた時は意外に思った。だが、本作で描かれる、貧しい人々がひとつの街で共同生活を送りながら、生々しい感情をぶつけ合い、時に社会的規範を逸脱した行為を繰り広げる様子は『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)や『木更津キャッツアイ』(同)といった宮藤の初期代表作や、宮藤の師匠にあたる大人計画の主宰・松尾スズキの舞台の世界そのもので、たしかにこの作品は宮藤の原点であると、ドラマを観て納得した。
同時に感心したのが、原作を踏まえた上で、舞台を現代に置き換え、宮藤にしか作れないドラマに仕上げたことだ。
原作小説と『どですかでん』では、戦後のバラック街のイメージが強く打ち出されていた物語の舞台は、“ナニ”と呼ばれる自然災害から12年後を舞台に、災害で家を失った人々が暮らす仮設住宅に置き換えられている。
季節のない街 ディズニープラス「スター」で全10話独占配信中
原作者の山本周五郎は小説のあとがきで、本作に登場する人たちは作者にとっては過去の存在だが、街の人々が経験する悲喜劇は普遍的なもので、読者のすぐ身近で、同じような気持ちで日々を送っている人たちは存在すると書いている。
そして、舞台となる街のことを「ここには時限もなく地理的限定もない」と語っているのだが、だからこそ、戦後のバラック街を被災者の暮らす仮設住宅に置き換えても、本作は成立するのだろう。
その意味で本作は、2013年に放送された連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)のその後とも言える。
終盤で東日本大震災を起こり、岩手県久慈市で暮らす劇中の登場人物が被災する場面を宮藤は『あまちゃん』で描いたが、東日本大震災を“ナニ”という架空の災害に置き換えることで『あまちゃん』では踏み込めなかった、善良で無垢な貧しい被災者という言葉では括ることのできない、残酷さと優しさが共存する世界を描き出くことに成功している。
季節のない街 ディズニープラス「スター」で全10話独占配信中
一方、宮藤が大石静と共同脚本で執筆し、6月に配信されたドラマ『離婚しようよ』(Netflix)では『あまちゃん』のパロディとなるドラマ「巫女ちゃん」が劇中で展開され、日本の地方政治の実態がコミカルに描かれていた。家が代々政治家の三世議員と国民的女優の離婚を喜劇として描いた本作は、富裕層の人々の悲喜交々を描いた物語だったが、貧しい人々の日常を描いた『季節のない街』とは違う視点による『あまちゃん』に対する作者自身による返信となっていた。その意味でこの二作は表裏一体だと言える。
季節のない街 ディズニープラス「スター」で全10話独占配信中
また、『どですかでん』では黒澤がカットしたエピソード「半助と猫」の主人公・半助(池松壮亮)を主人公に変えたことも、大きな脚色だ。
同じ被災者ではあるものの、街の人々を観察し、その様子を報告することで金を得るために外からやってきた半助は、宮藤の分身であると同時に我々、視聴者の分身でもある。
貧しい中で力強く生きている街の人々に親しみを覚えつつも、完全には一体化できない半助の居心地の悪さが笑いに昇華されている。
この距離感は宮藤のドラマに脈々と流れている優れたバランス感覚だ。
半助の視線があるからこそ、私たちはこの街に入っていくことが可能で、外から来た人間と中で暮らす人間、双方の気持ちに共感することができるのだ。
今回ご紹介した作品
季節のない街
ディズニープラス「スター」で全10話独占配信中
情報は2023年9月時点のものです。